上 下
33 / 48
奉日本-2

奉日本-2-12

しおりを挟む
「……え?」
 有栖の発言は沈黙を生み出し、それが場を支配したのは右京と一色楓が理解する為の時間でもあった。だが、実際は理解は出来ず、驚いた上で、右京は一言呟き、一色楓は黙って有栖の方を見ていた。
「でも、それなら尚更、変だ。結城さん達が捕まった話なんて聞いたことないし、カラーズが堂々と活動している意味が解らない」
 右京がたどたどしく、何とか自分の考えを言葉にする。
「そうね、その通り。だけど、それには二つの理由がある。一つは結城清治。彼が与党であるK党の幹部議員の息子だということ」
 有栖が人差し指を立てて、続ける。
「与党と警察は癒着に賄賂にずぶずぶの関係だから、父親の結城議員に警察は配慮、結城議員は警察に報酬を渡して自分の地位が危ぶまれる状況を避けてる」
 有栖は話しながら辟易した表情を見せる。如何にも嫌悪、という表情を隠すこともない。
「それだと、さっきの話と違いませんか? 捕まってると、見逃してもらってるじゃ全然意味が違う」
「そうね。だから、見逃してもらっているなんて言ってない。そりゃ、一回や二回ならもみ消すこともするでしょうけど、カラーズの違法ハーブの売買の頻度は看過できないレベルよ」
「じゃあ、捕まってるのが本当だとしても意味が解らないです」
「折衷案よ」
「折衷案?」
「警察はカラーズの行為を見逃し続けると問題になる。でも、結城議員には配慮をしたい。結城議員は息子が捕まると自分の地位が危ぶまれるから避けたい。そして、双方としてはユースにカラーズが捕まると、警察は面子が潰されるし、結城議員は辞職に追い込まれる。これが一番のバッドエンド――まぁ、こっちの組織としてはハッピーエンドだけど」
 この背景があるから、ユースティティアは躍起になってカラーズを捕まえようとしていた。そして、今、あともう一歩のところまできているからこそ、彼女の組織は忙しくなっているのだ。
 ――これまでも同様にあと少し、というところまできてはいたけど捕まえることができなかった。
 奉日本は有栖が言わなかった補足情報を心の中で呟く。そして、それが出来なかった折衷案、というのも知っていた。
 最悪で最低の愚策だ。
「そのバッドエンドを避ける為に、行われてきたのがカラーズが派手に動いて問題になったとき――カラーズの一人を捕まえる、ということ」
 有栖はそう言って、胸ポケットから複数枚の写真を取り出し、テーブルに広げた。
「それは過去に捕まったカラーズのメンバーよ」
 右京は有栖の話を聞き、テーブルの写真を見て言葉を失った。
 写真には年齢の近い青年が数人映っている。そんな彼等には共通点が一つ――髪が緑色だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

有栖と奉日本『不気味の谷のアリス』

ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第五話。 マザー・エレクトロン株式会社が開催する技術展示会『サイバーフェス』 会場は『ユースティティア』と警察が共同で護衛することになっていた。 その中で有栖達は天才・アース博士の護衛という特別任務を受けることになる。 活気と緊張が入り混じる三日間――不可解な事故と事件が発生してしまう。 表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)

有栖と奉日本『ファントムケースに御用心』

ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第二話。 少しずつではあるが結果を残し、市民からの信頼を得ていく治安維持組織『ユースティティア』。 『ユースティティア』の所属する有栖は大きな任務を目前に一つの別案件を受け取るが―― 表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)

有栖と奉日本『ミライになれなかったあの夜に』

ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第八話。 『過去』は消せない だから、忘れるのか だから、見て見ぬ振りをするのか いや、だからこそ―― 受け止めて『現在』へ そして、進め『未来』へ 表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)

有栖と奉日本『垂涎のハローワールド』

ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第七話。 全てはここから始まった―― 『過去』と『現在』が交錯し、物語は『未来』へと繋がっていく。 表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)

有栖と奉日本『チープな刻の中で』

ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第四話。 誰しも時間は平等に流れている。 治安維持組織『ユースティティア』にも警察にも。 それが束の間の平穏だとしても。 表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)

有栖と奉日本『デスペラードをよろしく』

ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第十話。 『デスペラード』を手に入れたユースティティアは天使との対決に備えて策を考え、準備を整えていく。 一方で、天使もユースティティアを迎え撃ち、目的を果たそうとしていた。 平等に進む時間 確実に進む時間 そして、決戦のときが訪れる。 表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(X:@studio_lid)

変な屋敷 ~悪役令嬢を育てた部屋~

aihara
ミステリー
侯爵家の変わり者次女・ヴィッツ・ロードンは博物館で建築物史の学術研究院をしている。 ある日彼女のもとに、婚約者とともに王都でタウンハウスを探している妹・ヤマカ・ロードンが「この屋敷とてもいいんだけど、変な部屋があるの…」と相談を持ち掛けてきた。   とある作品リスペクトの謎解きストーリー。   本編9話(プロローグ含む)、閑話1話の全10話です。

リモート刑事 笹本翔

雨垂 一滴
ミステリー
 『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。  主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。  それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。  物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。  翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?  翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!

処理中です...