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奉日本-1

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「ごちそうさま」
 久慈は二杯目に頼んだモーツァルトミルクを空にすると、そう言って立ち上がった。
「これお代。じゃあ、また来るよ」
 カウンターに明らかに今日飲んだ二杯のお酒の金額よりも多くの金を置き、久慈は振り返ることもなく店を出て行った。彼はいつも店に来ると自分が飲食した以上の費用を払っていく。
 奉日本も最初は多い分は返そうとしたが、
「美味かった酒を不味くするな」
 と久慈に言われてしまい、それ以降は黙って出された分を素直に受け取るようにしている。久慈からすればチップや閉店後にも関わらず店で飲ましてくれることへの感謝も含めて多めに支払っているのだろう。
「片付けますか」
 さすがにこれ以上、客が来ることはないので手際よく片付けを進めていく。
 ――今日も色々な話が聞けたな。
 手を動かしながら、奉日本はそんなことを思っていた。
 先程の久慈のように裏社会に関わる人間も、大手企業で働くサラリーマンも、学生もこの店に来ては奉日本に様々なことを話す。それを仕事をしながら聞くので様々な情報と人の顔を覚えていく。彼の店では彼を中心に人と情報が交わり、流れる。

 そんな日々の中で、奉日本が最も面白く、珍しい出会いだと感じたのが――有栖 陽菜だった。
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