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有栖-1

有栖-1-6

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「美味しい」
「それは良かった」
 有栖は出されたハンバーグを箸で一口サイズに切ると頬張り、率直な感想を述べた。肉厚のハンバーグから溢れ出る肉汁と特性と言っていたデミグラスソースが混ぜ合わさって自然な流れでセットのごはんを口に運んでしまい、止まらない。
 スープはオニオンスープ。サラダはコールスロー。シンプルだけど充分だった。
 有栖が受けている優遇、というのは高本の店でランチタイム終了後、バーに切り替わる準備時間の空いているときにランチを食べさせてもらえることだ。
 この辺りの店はランチタイムはどこも混んでいるので、この優遇は彼女にとっては非常に助かるものであった。
「ごちそうさま」
「お粗末様でした。コーヒー準備しますね」
「どうも。いや、この特別扱いは何か申し訳ない気持ちになるんだけど……この店のランチとコーヒーの魅力には抗えないわ」
「いいんですよ、有栖さんは恩人ですから」
 高本のその言葉は何回も聞いたが、その度に少しだけ罪悪感が軽くなるのを有栖は感じていた。
 優遇を受けられるのは、高本の言ったとおり有栖が恩人だからだ。それは本当に偶然で、彼女が業務上この辺りを捜査している際、彼がトラブルに巻き込まれているのを解決。その流れで今の関係に至る。
「お仕事はお忙しいんですか?」
「うーん、絶賛謹慎中」
「それはそれは絶好調ですね」
 このような軽口を交わし合えるぐらいには二人は親しくなっていた。高本がネルドリップでコーヒーを淹れながら微笑む。落ち着く香りが有栖まで届く。
「しばらくは事務仕事の予定」
「それも大事な仕事ですよ」
「解ってはいるけど、身体を動かす方が自分には向いてるんだよね」
「俺も有栖さんのイメージはそっちですね、どうぞ」
 高本がコーヒーを差し出し、有栖は受け取り一口啜る。優しい口当たりに、すっきりとした後味が食後には丁度良い。
「あ、でも、一つ面倒なことを引き受けたんだった」
「面倒なことですか?」
「うん、猫探し」
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