上 下
7 / 48
有栖-1

有栖-1-4

しおりを挟む
 時刻は十四時。有栖はオフィスを出て、昼食を摂る為に一つの店に向かっていた。大体の店のランチタイムはこの時間になると終わってしまうが、彼女はあえてこの時間帯にその店に向かっていた。
 理由は簡単だ――優遇してくれるからだ。彼女はそういった特別扱いをあまり好まないが、その店の好意に甘えている。代金はちゃんと払っているし、コーヒーも一杯多めに頼んだり、と自分なりにその好意に応えているつもりだ。
 その店とそんな関係になったのも何かの縁だし、何よりもその優遇が有栖にとっては非常に魅力的なものだったりするからだ。
「……甘えてるだけなんだけどね」
 そう呟いて、有栖はその店の前で立ち止まる。
 白い外壁に外光が差し込むように備え付けられた窓、無垢の木の看板とドアがオシャレな四角い建物のカフェ。ランチタイムは十四時までで一度閉まり、十八時以降はバーに切り替わって営業している。少し変わった業務形態だが、ここのマスターいわくバーの方が稼ぎが良く、カフェ・ランチはちょっとした小銭稼ぎだ、と有栖は聞いたことがある。
 そして、今の時間帯はランチタイムは終了し、店のドアにはクローズの表示が掛けられている。そのドアのノブに有栖は手を掛けると、
「すいません」
 そう言って、何の抵抗もなく開くドアに少しだけ隙間を作って顔だけ出して、声を掛ける。
「あぁ、有栖さん。いらっしゃいませ」
 彼女と目が合った、カウンターに立っているこの店のマスター――高本 彦(たかもと げん)がグラスを磨きながら笑顔で迎え入れてくれた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

有栖と奉日本『不気味の谷のアリス』

ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第五話。 マザー・エレクトロン株式会社が開催する技術展示会『サイバーフェス』 会場は『ユースティティア』と警察が共同で護衛することになっていた。 その中で有栖達は天才・アース博士の護衛という特別任務を受けることになる。 活気と緊張が入り混じる三日間――不可解な事故と事件が発生してしまう。 表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)

有栖と奉日本『ファントムケースに御用心』

ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第二話。 少しずつではあるが結果を残し、市民からの信頼を得ていく治安維持組織『ユースティティア』。 『ユースティティア』の所属する有栖は大きな任務を目前に一つの別案件を受け取るが―― 表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)

有栖と奉日本『ミライになれなかったあの夜に』

ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第八話。 『過去』は消せない だから、忘れるのか だから、見て見ぬ振りをするのか いや、だからこそ―― 受け止めて『現在』へ そして、進め『未来』へ 表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)

有栖と奉日本『垂涎のハローワールド』

ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第七話。 全てはここから始まった―― 『過去』と『現在』が交錯し、物語は『未来』へと繋がっていく。 表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)

有栖と奉日本『チープな刻の中で』

ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第四話。 誰しも時間は平等に流れている。 治安維持組織『ユースティティア』にも警察にも。 それが束の間の平穏だとしても。 表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)

有栖と奉日本『デスペラードをよろしく』

ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第十話。 『デスペラード』を手に入れたユースティティアは天使との対決に備えて策を考え、準備を整えていく。 一方で、天使もユースティティアを迎え撃ち、目的を果たそうとしていた。 平等に進む時間 確実に進む時間 そして、決戦のときが訪れる。 表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(X:@studio_lid)

変な屋敷 ~悪役令嬢を育てた部屋~

aihara
ミステリー
侯爵家の変わり者次女・ヴィッツ・ロードンは博物館で建築物史の学術研究院をしている。 ある日彼女のもとに、婚約者とともに王都でタウンハウスを探している妹・ヤマカ・ロードンが「この屋敷とてもいいんだけど、変な部屋があるの…」と相談を持ち掛けてきた。   とある作品リスペクトの謎解きストーリー。   本編9話(プロローグ含む)、閑話1話の全10話です。

リモート刑事 笹本翔

雨垂 一滴
ミステリー
 『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。  主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。  それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。  物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。  翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?  翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!

処理中です...