上 下
4 / 48
有栖-1

有栖-1-1

しおりを挟む
「何を書いて欲しいの、これ」
 ノートパソコンに表示された始末書を前に、有栖 陽菜(ありす ひな)はそう言って舌打ちを一回した。彼女にそう言わせたのは始末書の一つの項目である『発生した要因について』だった。約三十分ほど、ここに記載する内容を書くために画面とにらめっこしていた。
「有栖……なんや、ぶっさいくな顔してんなぁ」
 有栖は横から近づいて来る声に反応した。同じ課の先輩である一色 誠(いっしき まこと)が笑いながらそこに立っている。
 黒の短髪に無精ひげを生やした冴えない四十代前半の中年男性で特徴を挙げるとすれば右目の泣きぼくろ、といった容貌の彼だが親しみやすく人当たりの良い性格から上司からはイチ、後輩からはイチさんと呼ばれている。
「イチさん……暇なんですか?」
「暇ちゃうわ、昼休憩や」
 もうそんな時間か、と思って有栖はパソコンに表示される時間を見た。十二時半、と表示され確かに昼時だ。彼女の働くオフィスは人の出入りが激しいし、書類関係を作成する以外はここにいることがないので、広々としている室内でデスクに座っている人は疎らだ。同じ課の人間に関しては全員出払っていた。
「有栖は昼飯行かんのか?」
「行きつけのとこがもう少ししたら空くんで、自分はそれから行きます」
「そっか。んで、何を悩んでるんや?」
「この項目です」
「あー、なるほどな」
「話しても無駄だったので、と書いても良いですか?」
「けったいな報告書作んな、差し戻されるだけやぞ。まったく、けったいなんは服装だけにしとけ」
 一色はそう言って、有栖を見て笑う。その一方で彼女は不機嫌そうに彼を睨んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

有栖と奉日本『不気味の谷のアリス』

ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第五話。 マザー・エレクトロン株式会社が開催する技術展示会『サイバーフェス』 会場は『ユースティティア』と警察が共同で護衛することになっていた。 その中で有栖達は天才・アース博士の護衛という特別任務を受けることになる。 活気と緊張が入り混じる三日間――不可解な事故と事件が発生してしまう。 表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)

有栖と奉日本『ファントムケースに御用心』

ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第二話。 少しずつではあるが結果を残し、市民からの信頼を得ていく治安維持組織『ユースティティア』。 『ユースティティア』の所属する有栖は大きな任務を目前に一つの別案件を受け取るが―― 表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)

有栖と奉日本『ミライになれなかったあの夜に』

ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第八話。 『過去』は消せない だから、忘れるのか だから、見て見ぬ振りをするのか いや、だからこそ―― 受け止めて『現在』へ そして、進め『未来』へ 表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)

有栖と奉日本『垂涎のハローワールド』

ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第七話。 全てはここから始まった―― 『過去』と『現在』が交錯し、物語は『未来』へと繋がっていく。 表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)

有栖と奉日本『チープな刻の中で』

ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第四話。 誰しも時間は平等に流れている。 治安維持組織『ユースティティア』にも警察にも。 それが束の間の平穏だとしても。 表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)

有栖と奉日本『デスペラードをよろしく』

ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第十話。 『デスペラード』を手に入れたユースティティアは天使との対決に備えて策を考え、準備を整えていく。 一方で、天使もユースティティアを迎え撃ち、目的を果たそうとしていた。 平等に進む時間 確実に進む時間 そして、決戦のときが訪れる。 表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(X:@studio_lid)

変な屋敷 ~悪役令嬢を育てた部屋~

aihara
ミステリー
侯爵家の変わり者次女・ヴィッツ・ロードンは博物館で建築物史の学術研究院をしている。 ある日彼女のもとに、婚約者とともに王都でタウンハウスを探している妹・ヤマカ・ロードンが「この屋敷とてもいいんだけど、変な部屋があるの…」と相談を持ち掛けてきた。   とある作品リスペクトの謎解きストーリー。   本編9話(プロローグ含む)、閑話1話の全10話です。

リモート刑事 笹本翔

雨垂 一滴
ミステリー
 『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。  主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。  それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。  物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。  翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?  翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!

処理中です...