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第五章:祭囃子

飛田_5-1

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「何で、こうなった?」
「怪我をしたからでは?」
 同じ病室でカーテンを挟んで違うベッドの上に並んで座る飛田が嘆くと、反保が冷静に返した。
 事の経緯は簡単だ。二人共、怪我をした当日に受診した検査には問題はなかったが、警察もユースティティアも詳細な検査を翌日受けるように指示していた。対処する医師側としては受けたダメージから検査入院を推奨、それが同じ年代ぐらいの若者で、すべき検査も同じだとすれば一緒に対応できた方が準備を含めて有り難い、とのことで二人仲良く同室で検査入院となったのだ。
「必要以上に話しかけてくるなよ」
 飛田はそれだけ告げて、カーテンを閉めると、ぼすん、と白いベッドに横たわる。
 身体は痛むがこれまでにも似たような経験があったので、どこか特別に悪いところはみつからないだろう、と一通りの検査をするまで一日の同室は我慢だと割り切る。
 ふと、横目でカーテン越しの反保を見た。座ったままのシルエットが――微動だに動かない……動かない……動かない……

「いや、人形かお前は!」
 十数分、全く同じ姿勢で動かない反保に、飛田側が痺れを切らしてカーテンを開けてツッコミをいれてしまった。さすがに反保もびくり、と反応する。
「な、なんですか」
「いや、横で全く動かないから逆に気になる。せめて、寝てろよ」
「あぁ、すみません。少し考え事をしていて」
 反保は謝りながらも作り笑いをする。だが、その雰囲気が暗いことは飛田でも解った。
「ジメジメしやがって、本格的にキノコになるつもりか? ……どうしたんだよ?」
「え?」
「どうしたかって聞いてんの。暇だから聞いてやる」
 反保は飛田を一瞥すると、少し考えるような様子をみせたが、少し間を開けてからゆっくりと話し始めた。彼自身も誰かに話を聞いてもらいたかったのだろう。
「……どうやったら、強くなれますか?」
「は?」
「もっと特務課の皆さんの役に立ちたいんです。けど、今回、こんなに怪我をして迷惑をかけてしまって……」
 聞き取れはするが反保の声のボリュームは下がっていく。一方で、飛田はそれを聞きながら、
「何言ってんだ、お前?」
 考えていたことを口に出した。
「いや、その、もっと強くなりたくて……」
「馬鹿じゃねぇの? お前、この前まで素人だろ? そんな急に強くなる方法があるなら俺だって知りたいっての。それともあれか? 警察でしっかり訓練してきたのに、お前と同じように検査入院している俺への遠間しの嫌味か?」
「あ、いえ、そういう意味ではなく……」
「だったら、この前まで素人だった奴が詩島組の幹部を倒して、俺と同じ功績上げてんだから素直に喜んでろ」
 真っ直ぐにそう伝える飛田に、反保は怯むように頷く。これが彼なりの不器用な激励だということは、不器用なりに受け取ったようだ。
「ありがとうございます。先輩の結果と比較して、悩んでしまって」
「あぁ、あのパイナップルか……」
 飛田も有栖が詩島組の若頭を倒したことは聞いている。ほぼ無傷だったことを考えれば、彼女の実力が飛び抜けていることは彼も認めざるを得ない。
 一方で、有栖が反保を説き伏せたとき、彼女はボロボロになっていたので、救われた彼としても思うところがあるのだろう。
「逆にラッキーだろ。強い先輩がいれば、鍛えてもらえば良いし」
「そうですね。あと、一色さんもいますし……頑張ります」
 その言葉を聞いて、飛田がぴくりと反応する
「自慢か?」
「へ?」
「イチさんに教えてもらえるとか自慢でしかないだろうが、羨ましい! あぁ、そうだ。さっき悩みを聞いた見返りに、お前の連絡先教えろ。そんで、イチさんの情報とか定期的に送れ。そうすれば、こっちが上手いこと合わせれば一緒に仕事する機会も増える」
「いやですよ、警察に機密情報を教えるわけないでしょ」
「じゃあ、俺はどうやってイチさんと一緒に仕事すれば良いんだよ?」
「転職でもしたらどうですかね?」
 騒がしく口げんかする二人は、その後、看護士から怒られることになる。飛田は、反保に対して、最初に相対したときの話をする機会を知らず知らずに失うことになったのだった。
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