有栖と奉日本『不気味の谷のアリス』

第五章：祭囃子

反保_5-1

「事故にあった方は……」
「残念ながら死亡が確認されたそうやわ」
　一色が運転する車の助手席で反保は話を聞いていた。目的地の病院までは十五分ほどかかるので、色々と話を聞くには丁度良い。

　アース博士を護る戦闘は、無事にユースティティアと警察の勝利に終わった。詩島組の幹部たちをどちらが引き取るかはユースティティアと警察の方で少々揉めたらしいが、一色としてはそこは現場にいる一番上長による協議に任せたらしい。
　結果は警察が引き取ることになったので、有栖は悔しそうだった。

「治療が終わったら、有栖先生による鬼のようなトレーニングが待っとるで」
「はい……精進します」
　一色は楽しそうに笑いながら話すが、反保は苦笑いを浮かべるしかなかった。

　戦闘の結果を報告した際、怪我だらけの反保を見て、一色も有栖も驚き、応急処置をしている間、有栖は彼が無茶な戦いをしたことについて烈火のごとく怒った。
　一色からすれば有栖も無茶な戦いをするが、今はそのことを言うのは野暮なので、ある程度の説教と応急処置が終わった辺りで病院で治療する為に反保を連れ出すことにした。現場はほぼ無傷の有栖に任せて。
　一方で、反保は有栖の説教を聞きながらも、彼女が音切よりも実力者であろう詩島組の若頭と戦いながらも無傷だったことに驚き、その実力差を感じた。そして、もう一つ……思うところもあったが――

「一色さん。僕、もっと頑張ります」

　とりあえずは、色々な感情を飲み込み、それだけ伝えた。
「怪我を治してからな」
　一色は優しくそう返すと車の速度を緩める。左折した車は病院の駐車場へと入ろうとしていた。