有栖と奉日本『不気味の谷のアリス』

第四章：三極-1-

飛田_4-3

　岩田が飛田を跨いで、通り過ぎようとした時だ。
「ん？」
　岩田は足を引っ張られる感覚を覚えた。視線を落とすと、そこにはズボンの裾を掴んでいる飛田の手があった。
「邪魔だ」
　岩田はそれを振り払う為に足を強く引き寄せるが、飛田は放さない。数回繰り返すが、それでも結果は同じだった。時間の浪費を嫌った岩田はもう片方の足で飛田の胸を踏みつけた。さすがに衝撃で、彼の手が放れる。
「お前みたいに恵まれて、居場所もあるような奴に必死な俺を止められるわけないだろ」
　岩田の足音が少しずつ遠ざかる。こつり、こつり、と革靴の音が響く中、飛田の頭の中には一つの言葉が引っかかっていた。

　――居場所……か。