有栖と奉日本『不気味の谷のアリス』

第四章：三極-1-

岩田_4-2

　岩田が飛田を見る目には僅かながら羨望があった。
　彼の体躯は幼い頃から大きく、その割には小心者だったこともあり周囲から虐められていたのだ。
　巨人、ウスノロ、ウドの大木――そんな言葉を投げられ続けてきた。その者達は自分よりも大きな岩田を虐げることが出来る優越感に浸りたかったのだろう。
　だが、彼にも抵抗する気持ちは存在していた。その身体に見合うぐらいに力は強く、虐めてきた相手を振り払い、大怪我をさせたこともある。そして、それは一方的に岩田の責任になったことがある。
　それは彼が成人になるまで続き、どこまでも続くかと思われた。しかし、その身体と力を求めたのが――詩島組だった。

「思う存分に暴れろ。責任は俺が持ってやる」

　伏見、という岩田の兄貴分は彼を世話し、問題を起こせば庇ってやり、決して見捨てなかった。その信頼に応えることにより、岩田は詩島組の幹部まで上り詰めた。

「俺は自分の居場所を護る為にも、兄貴の言ったことを成し遂げる。それしかないんだ」