有栖と奉日本『不気味の谷のアリス』

第二章：開幕

アリス

　ワタシの生みの親が今、大勢の前で発表をしています。
　大型のモニターを背に、大勢の人々の前で緊張する素振りもなく魔法のようにスラスラと言葉を並べていきます。
　それを聞く人々は同じような顔を並べて、感嘆の声を零します。面白いのはその他大勢の目でしょう。
　感動、羨望、嫉妬――様々な感情があるようです。様々な感情のデータと一致するので間違いないでしょう。そして、確実に感銘を受けていることも。
　当然でしょう。また、世界が進んだのですから。ですが、ワタシの知る限りではこれは数多くある未発表の研究内容の一つに過ぎません。
　今なら、これを発表して良い、ということでしょう。それはまるで世界の進むスピードを調整しているようにも思えます。

　発表が終わり、質疑応答の時間になったようです。数多くの質問に博士は淡々と答えていきます。
「アース博士は独自で研究していることはありますか？」
　それは一人の男性が和ませようとしたのか、今回の発表とは関係ない質問をしました。
「趣味程度なら」
　場の空気を読んだのか博士はさらり、と答えます。
「娯楽の一環で世界を変えない下さいよ」
　その言葉に場内に笑いが起きて、発表会は終わりとなりました。