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第一章:緞帳を前に
アリス
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こんこん、とノックの音が響きました。しかし、この部屋の主は反応しません。
こんこん、と再びノックの音が聞こえます。
「アリス」
ワタシの生みの親で、この部屋の主であるアース博士に呼ばれ、移動を開始し、ドアを開けます。
ドアの向こうにいる人達はワタシがいることが予想外だったのでしょう。表情には驚きの感情が見えました。アース博士が相手するわけないでしょう、全く。
ドアの向こうにいたのは警察が二人、ユースティティアが三人。顔認証を開始しま――
「失礼します。警察からアース博士の護衛を任されました虹河原です」
ワタシが顔認証をしている間に、虹河原、という男がアース博士へと話しかけます。まぁ、既に認証は終わりましたが。
虹河原の発言は当然、無視です。アース博士はキーボードを打ち込む手を止めませんし、視線は彼へと向きません。
「お忙しいのは理解しますが、貴女の護衛です。顔と名前ぐらいは覚えておいても無駄にはならないのでは?」
虹河原がそう言いますが、アース博士は相手にしません。そのあとも彼は理論的に色々と話しますが、アース博士は相手にしません。
「はいはい、ストップ」
ある程度のところで一色、という男が虹河原を止めました。
「ユースティティアの一色です。ほれ、他の人も自己紹介だけしとき。んで、帰るで」
そのあと、ユースティティアから有栖、反保。警察から飛田が挨拶をしました。
「これで良いんですか?」
不服そうに聞いたのは虹河原です。
「アース博士は頭良いんやから興味があれば覚えるやろうし、なければ何をどうやっても覚えんやろ。我々の仕事は彼女の護衛で、それは顔も名前も覚えてもらわんでも可能やろ。まぁ、こっちの部下はアース博士の顔を知らんけど、それはあとで写真を見てもらえば良いだけや」
なるほど。この一色の言う通りですね。この自己紹介は、互いの目的を果たすための絶対条件ではありません。
そのとき、状況に変化が起きました。
「アースだ、よろしく」
アース博士が作業しながら挨拶をしました。珍しいことです。更に、もう一言。
「一色、キミは聡い人間だね」
「そりゃどうも。光栄ですわ。では、失礼します」
折角の会話も、調子に乗らずに切り上げる。一色、という男は本当に聡明です。
警察とユースティティアが出て行き、ワタシはドアを締め、所定の位置で待機します。視線もいつも通り、アース博士の方向に向けました。
アース博士の表情は、少し楽しそうでした。
こんこん、と再びノックの音が聞こえます。
「アリス」
ワタシの生みの親で、この部屋の主であるアース博士に呼ばれ、移動を開始し、ドアを開けます。
ドアの向こうにいる人達はワタシがいることが予想外だったのでしょう。表情には驚きの感情が見えました。アース博士が相手するわけないでしょう、全く。
ドアの向こうにいたのは警察が二人、ユースティティアが三人。顔認証を開始しま――
「失礼します。警察からアース博士の護衛を任されました虹河原です」
ワタシが顔認証をしている間に、虹河原、という男がアース博士へと話しかけます。まぁ、既に認証は終わりましたが。
虹河原の発言は当然、無視です。アース博士はキーボードを打ち込む手を止めませんし、視線は彼へと向きません。
「お忙しいのは理解しますが、貴女の護衛です。顔と名前ぐらいは覚えておいても無駄にはならないのでは?」
虹河原がそう言いますが、アース博士は相手にしません。そのあとも彼は理論的に色々と話しますが、アース博士は相手にしません。
「はいはい、ストップ」
ある程度のところで一色、という男が虹河原を止めました。
「ユースティティアの一色です。ほれ、他の人も自己紹介だけしとき。んで、帰るで」
そのあと、ユースティティアから有栖、反保。警察から飛田が挨拶をしました。
「これで良いんですか?」
不服そうに聞いたのは虹河原です。
「アース博士は頭良いんやから興味があれば覚えるやろうし、なければ何をどうやっても覚えんやろ。我々の仕事は彼女の護衛で、それは顔も名前も覚えてもらわんでも可能やろ。まぁ、こっちの部下はアース博士の顔を知らんけど、それはあとで写真を見てもらえば良いだけや」
なるほど。この一色の言う通りですね。この自己紹介は、互いの目的を果たすための絶対条件ではありません。
そのとき、状況に変化が起きました。
「アースだ、よろしく」
アース博士が作業しながら挨拶をしました。珍しいことです。更に、もう一言。
「一色、キミは聡い人間だね」
「そりゃどうも。光栄ですわ。では、失礼します」
折角の会話も、調子に乗らずに切り上げる。一色、という男は本当に聡明です。
警察とユースティティアが出て行き、ワタシはドアを締め、所定の位置で待機します。視線もいつも通り、アース博士の方向に向けました。
アース博士の表情は、少し楽しそうでした。
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