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第一章:緞帳を前に
虹河原_1-1
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一色を除く全員が少々不服そうだが、揃って棟の中に入り、今回の重要人物と会いに行くことになった。前を歩くの警察の二人、その後ろにユースティティアの三人が並んで歩く。
三階建ての棟は出入口の近くに三階まで昇降できる階段があり、踊り場からは真っ直ぐに廊下が延びている。廊下の片側は窓で、反対側には複数の部屋がある。今回、一行は三階まで上がったが、全ての階が同じ構造だった。
建物自体は綺麗で白い床は天井の蛍光灯の光を反射させるぐらいにワックスがかけてあり、消火器や消火栓、防火扉等の安全対策も行き届いている様子から放置されている建物ではなさそうだった。
「アース博士ってどんな人なんですか?」
虹河原の後ろからそんな会話が聞こえてきた。有栖、という隊員が質問している様子から今回の護衛対象について、一色が伝えてないことを察する。
――どうせ歩きながら説明するつもりだったのだろう。
虹河原は過去に一色が警察に勤めていたときのことを思い出しながら、そんなことを考えていた。彼も過去にそのような経験があったからだ。ただ、それは教えなかったのではなく、どのように護衛するか、又、どのように連絡手段を確保するか等を重視し、対象の情報は補足で充分だと判断したのだろう、とも理解していた。
一方で全ての情報を既に飛田に教えている自身とは考え方が違う、とも思う。
――確かに情報が多くて、飛田くんは少々混乱していましたね。そこは反省点……いや、決して真似をするのではなく。
謎の言い訳を心の中でする虹河原を知る由もなく、ユースティティア側は情報を整理していく。
アース博士の本名はアース・バウンド。女性。マザー・エレクトロン株式会社に勤めている天才……等々。
「何故、この棟を貸し切っているんですか?」
そう聞いたの反保だった。どう説明しようかと悩む一色に助け船ではないが、気まぐれで虹河原が答えた。
「彼女は三日あれば世界を動かせるからだ」
その言葉が衝撃的だったのか、虹河原が話したことが意外だったのか全員の視線が彼に集まった。仕方なしに、彼は説明を続ける。これも同じ任務を行う相手へのコミュニケーションの一つだと言い聞かせて。
「アース博士は天才故に、多くの人が彼女の意見を聞きたがったり、研究を見て欲しかったり、と常に周囲に人がいる状態なので自身の研究が進められないらしい。だが、サイバーフェスの期間で彼女がイベントに顔を出すのは数回。それ以外はここで自身の研究を集中して行える」
「その為に貸し切り……ってことはマザー・エレクトロンは全面協力ってことですか?」
話の流れで反保が質問する。過去に容疑者として追っていた人物と任務の話をすることは違和感があるが、虹河原はそれを気にしないことにした。
「あぁ、三日間だけ建物を貸し切り、あらゆる機材を搬入すれば世界に影響を与える研究成果を出すのだから、充分過ぎる費用対効果だ。協力は惜しまない。ただ、それだけの人物故に誰からも狙われる。私達の任務は、彼女の邪魔をしないように護衛することだ」
虹河原の説明に、反保も有栖も納得しているようだった。一色も彼の説明で充分だと判断したのか余計な補足はしなかった。
「ありがとうございます。僕達がこのような仕事を任されるのは解るのですが、お二人は優秀だから任されたんですよね。凄いなぁ」
反保の発言に虹河原は固まった。彼は和ます為に言ったのだろうが、実際は虹河原と飛田の二人がこの任務を担当することになったのは――反保がユースティティアに所属する前に起こした事件で少々のミスがあったことによる処罰の一環だったからだ。
「お前、躊躇いもなく地雷を踏むなよ、バカ」
固まる虹河原の横で飛田が呆れたように、そう言った。
三階建ての棟は出入口の近くに三階まで昇降できる階段があり、踊り場からは真っ直ぐに廊下が延びている。廊下の片側は窓で、反対側には複数の部屋がある。今回、一行は三階まで上がったが、全ての階が同じ構造だった。
建物自体は綺麗で白い床は天井の蛍光灯の光を反射させるぐらいにワックスがかけてあり、消火器や消火栓、防火扉等の安全対策も行き届いている様子から放置されている建物ではなさそうだった。
「アース博士ってどんな人なんですか?」
虹河原の後ろからそんな会話が聞こえてきた。有栖、という隊員が質問している様子から今回の護衛対象について、一色が伝えてないことを察する。
――どうせ歩きながら説明するつもりだったのだろう。
虹河原は過去に一色が警察に勤めていたときのことを思い出しながら、そんなことを考えていた。彼も過去にそのような経験があったからだ。ただ、それは教えなかったのではなく、どのように護衛するか、又、どのように連絡手段を確保するか等を重視し、対象の情報は補足で充分だと判断したのだろう、とも理解していた。
一方で全ての情報を既に飛田に教えている自身とは考え方が違う、とも思う。
――確かに情報が多くて、飛田くんは少々混乱していましたね。そこは反省点……いや、決して真似をするのではなく。
謎の言い訳を心の中でする虹河原を知る由もなく、ユースティティア側は情報を整理していく。
アース博士の本名はアース・バウンド。女性。マザー・エレクトロン株式会社に勤めている天才……等々。
「何故、この棟を貸し切っているんですか?」
そう聞いたの反保だった。どう説明しようかと悩む一色に助け船ではないが、気まぐれで虹河原が答えた。
「彼女は三日あれば世界を動かせるからだ」
その言葉が衝撃的だったのか、虹河原が話したことが意外だったのか全員の視線が彼に集まった。仕方なしに、彼は説明を続ける。これも同じ任務を行う相手へのコミュニケーションの一つだと言い聞かせて。
「アース博士は天才故に、多くの人が彼女の意見を聞きたがったり、研究を見て欲しかったり、と常に周囲に人がいる状態なので自身の研究が進められないらしい。だが、サイバーフェスの期間で彼女がイベントに顔を出すのは数回。それ以外はここで自身の研究を集中して行える」
「その為に貸し切り……ってことはマザー・エレクトロンは全面協力ってことですか?」
話の流れで反保が質問する。過去に容疑者として追っていた人物と任務の話をすることは違和感があるが、虹河原はそれを気にしないことにした。
「あぁ、三日間だけ建物を貸し切り、あらゆる機材を搬入すれば世界に影響を与える研究成果を出すのだから、充分過ぎる費用対効果だ。協力は惜しまない。ただ、それだけの人物故に誰からも狙われる。私達の任務は、彼女の邪魔をしないように護衛することだ」
虹河原の説明に、反保も有栖も納得しているようだった。一色も彼の説明で充分だと判断したのか余計な補足はしなかった。
「ありがとうございます。僕達がこのような仕事を任されるのは解るのですが、お二人は優秀だから任されたんですよね。凄いなぁ」
反保の発言に虹河原は固まった。彼は和ます為に言ったのだろうが、実際は虹河原と飛田の二人がこの任務を担当することになったのは――反保がユースティティアに所属する前に起こした事件で少々のミスがあったことによる処罰の一環だったからだ。
「お前、躊躇いもなく地雷を踏むなよ、バカ」
固まる虹河原の横で飛田が呆れたように、そう言った。
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