有栖と奉日本『不気味の谷のアリス』

第一章：緞帳を前に

有栖_1-2

「高本さんはここで三日間営業ですか？」
「はい、そうです。コーヒーと軽食を提供しますので是非ご利用ください」
　有栖はその話を聞いて、横に並ぶ反保に笑顔を見せた。
「反保、高本さんのコーヒーと料理は美味しいから期待して良いよ」
「そうなんですね」
　嬉しそうな有栖の顔に、反保は感心したような表情を浮かべて相づちを打つ。
「あのー、期待して頂いているところ申し訳ないんですが……」
　高本が言葉を挟む。少し濁りが見えて、言いにくそうだった。
「今回は食材を持ち込めてないんですよ。だから、軽食、といっても俺が作るわけじゃなくて仕入れたお菓子の提供なんです」
「そうなんですか。勤務中に高本さんの料理が食べれたら、気合い入るのに」
「普段から気合い入れてください、先輩」
「訂正。普段以上に」
　そんな二人の会話を高本が微笑んで見ている。少しの雑談を交わしたあと、
「じゃあ、そろそろ行きます。また来ますので」
「失礼します」
　有栖はそう言って、反保と一緒に高本に一礼した。
「はい。是非、また会いましょう」
　高本の笑顔を見たあと、二人は休憩エリアを離れた。
「有栖先輩、このあとはどうするんですか？」
「そろそろ、イチさんのところに戻ろう。打ち合わせも終わってるだろうし」
　会話を交わすと、二人は進行方向を最初に一色と別れた場所へと変更して歩いて行った。