有栖と奉日本『ファントムケースに御用心』

ぴえ

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有栖-4

有栖-4-10

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「うぉぉぉ!」
 男の一人が拳を振り上げ、襲ってくる。薄暗い部屋の中だが、窓を破壊したことにより、外の光が入ってくるので人の動きは捉えることが出来た。
 有栖は左腕で相手の拳が振り下ろされる前に、止めると右の掌底をアッパーカットのように振るい、相手の顎を打ち抜く。そして、膝ががくりと落ちたところにソバットで顔面を吹き飛ばした。
「なにしてくれてんだ、コラァ!」
 続いて、もう一人も突っ込んでくる。まるで、熊が威嚇するかのように両手を上げて。
 有栖は相手との間合いを確認し、一歩踏み込んだ瞬間に、急所を蹴り上げた。
「ぎぃっ」
 男が短い悲鳴を上げたと同時に、懐にもぐり込み、腕を掴んで一本背負いのように投げ飛ばした。勢いよく壁に衝突した男はどさり、と床に倒れる。そのとき、がらがら、と何か崩れる音が聞こえた……部屋の壁に穴が空いたようだ。
「ほう、やるな。だが、俺は――」
「うるさい」
 最後の一人――この中では一番地位の高いであろう男が何か話そうとしていたが、有栖はそのような御託を並べているのを聞いている余裕はなかった。
「え?」
 男が次に有栖を確認したときには、彼女は自分に向かって飛びかかっており、右拳を打ち下ろす準備を完了していた。
「がはっ!」
 有栖の拳は容赦なく男の顔面へとめり込み、振り抜かれる。男は床に叩きつけられて気を失った。
「松下さん!」
 詩島組を全員倒した有栖は床に寝転がっている松下優也へと駆け寄った。耳を胸に近づけ、心音があることを確認する。
 どくん、どくん、と正常なリズムを聞くと、彼女は安堵した。そのまま耳を顔に近づけ、呼吸があることを確認すると、頬を数回叩く。
「松下さん、松下さん」
「……あ、有栖さん」
 ぼんやりと寝ぼけたようにそう言った松下優也の声を聞いて、有栖は彼に色々と言いたいことがあった。

 何故、全てを自分に打ち明けてくれなかったのか?
 自分一人で解決しようとするな、困ったら頼れ。
 助けを求めることは恥ずかしいことじゃない。

 他にも多くの言葉、感情が混ざり、溢れかえっていたが、零れ出たのは、
「良かった……」
 その一言だけだった。
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