有栖と奉日本『ファントムケースに御用心』

有栖-4

有栖-4-9

　数分前、有栖はドアを叩き、騒音を不審に思った同じ階の住人に事情を簡易的に話し、中に入れさせてもらった。そして、ベランダに出ると以前、部屋を調査したときに見つけ、記憶に残っていたものを見据えた。
『非常の際には、ここを破って隣戸へ避難出来ます』
　これはマンションなどに備え付けられているベランダにある破れる仕切だ。非常時にはこれを破って隣へ避難が可能になっており、それは角部屋まで続いている。
　有栖はこれを突き破り、角部屋まで到着。そして、窓を蹴り壊した。鉄の扉とは違い、ガラスは容易く壊れ、中に入ることができた。
「動くな！」
　有栖は中にいる男達に言い放ち、状況を即座に確認する。
　男が三人。これは詩島組だと解る。そして、床に倒れている松下優也――意識を失っているようだが、この状況では生死の判断はできない。不安を覚えつつも、彼女が出来ることは明確だった。
「一刻も早く――制圧する」
　有栖が臨戦態勢に入ると、
「クソ、ぶっ殺せ。そいつの死体は海にでも捨てれば済む」
　三人の一人がそう言うと、相手側も有栖と戦う体勢に入った。