上 下
39 / 47
有栖-4

有栖-4-8

しおりを挟む
「静かになりました」
 有栖が叩くドアの音が聞こえなくなると、その部屋の中にいる詩島組の男の一人がそう言った。
「今のはユースの奴か?」
「そうです。まさか来るとは思ってなかったですが……」
「まぁ、いいさ。こいつの処理を済ませてユースに見つけさせれば警察に恩を売れる」
 室内には三人の男――組の中では中堅の立場である一人と下っ端の二人がいた。松下優也を殺害し、自殺に見せかける指示を受けて、ここに訪れている。そして、松下優也は気絶をしていた。

 有栖が到着する三十分前。彼らは松下優也を襲撃。そして、薬品で気絶させた。その場で絞殺することも考えたが、殺害現場が管理人室と判断されることを恐れた彼らは例の部屋で全ての処理をすることにした。このときの彼らは有栖が来ると考えていなかったので、この判断は正しかったと言える。
 詩島組の三人の仕事はこの部屋で松下優也を絞殺。そして、首吊りの状態にし自殺に見せかけることだった。
「ここから出るときはどうしますか?」
「強行突破しても、ユースの奴は死体を無視できない。それかここから組の誰かに連絡して近くで問題を起こさせて、そっちに行っている間に逃げるでも良い。まぁ、やりようはいくらでもあるさ」
 三人の中で一番上の男がそう言うと床で気絶している松下優也を一瞥する。
「さっさと処理しろ。ここに来るまで予想外に時間がかかった。これ以上は――」
 そのときだ。微かに何かが破れるような音が聞こえた。そして、もう一度――同じ音が聞こえる。
「なっ!」
 そして、次の瞬間、ベランダに人影が映ると窓が粉々に砕け、誰かが飛び込んで来た。
「動くな! ユースティティアだ!」
 その人物――有栖はそう叫ぶように三人の動きを言葉で威嚇する。彼女の頬は突き破ったガラスの破片により切れて、一筋の血を流していた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

有栖と奉日本『幸福のブラックキャット』

ぴえ
ミステリー
警察と相対する治安維持組織『ユースティティア』に所属する有栖。 彼女は謹慎中に先輩から猫探しの依頼を受ける。 そのことを表と裏社会に通じるカフェ&バーを経営する奉日本に相談するが、猫探しは想定外の展開に繋がって行く―― 表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)

有栖と奉日本『不気味の谷のアリス』

ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第五話。 マザー・エレクトロン株式会社が開催する技術展示会『サイバーフェス』 会場は『ユースティティア』と警察が共同で護衛することになっていた。 その中で有栖達は天才・アース博士の護衛という特別任務を受けることになる。 活気と緊張が入り混じる三日間――不可解な事故と事件が発生してしまう。 表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)

有栖と奉日本『ミライになれなかったあの夜に』

ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第八話。 『過去』は消せない だから、忘れるのか だから、見て見ぬ振りをするのか いや、だからこそ―― 受け止めて『現在』へ そして、進め『未来』へ 表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)

有栖と奉日本『垂涎のハローワールド』

ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第七話。 全てはここから始まった―― 『過去』と『現在』が交錯し、物語は『未来』へと繋がっていく。 表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)

有栖と奉日本『チープな刻の中で』

ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第四話。 誰しも時間は平等に流れている。 治安維持組織『ユースティティア』にも警察にも。 それが束の間の平穏だとしても。 表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)

変な屋敷 ~悪役令嬢を育てた部屋~

aihara
ミステリー
侯爵家の変わり者次女・ヴィッツ・ロードンは博物館で建築物史の学術研究院をしている。 ある日彼女のもとに、婚約者とともに王都でタウンハウスを探している妹・ヤマカ・ロードンが「この屋敷とてもいいんだけど、変な部屋があるの…」と相談を持ち掛けてきた。   とある作品リスペクトの謎解きストーリー。   本編9話(プロローグ含む)、閑話1話の全10話です。

有栖と奉日本『デスペラードをよろしく』

ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第十話。 『デスペラード』を手に入れたユースティティアは天使との対決に備えて策を考え、準備を整えていく。 一方で、天使もユースティティアを迎え撃ち、目的を果たそうとしていた。 平等に進む時間 確実に進む時間 そして、決戦のときが訪れる。 表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(X:@studio_lid)

リモート刑事 笹本翔

雨垂 一滴
ミステリー
 『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。  主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。  それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。  物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。  翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?  翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!

処理中です...