有栖と奉日本『ファントムケースに御用心』

ぴえ

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「松下優也……あぁ、コーポ松下の件か」
 有栖の発言を聞いて、佐倉は自身の頭の中の引き出しを探り、必要な情報を取り出す。彼は既に詳細を知っており、それを伝えたのは一色だった。
「その件については対応しない結論になった、と聞いているが?」
 そう言って、佐倉は再度、一色を睨む。説明していないのか、と視線が語る。
「イチさん……いえ、上長から聞いています」
 有栖の発言で、佐倉の視線は彼女へと向く。さすがの眼光に彼女も緊張から固唾を飲んだ。
「なるほど、聞いているか。確かに、松下優也が危険に晒される可能性があるとしたら、我々が動く今日だろうな。日中とは考えにくいし、深夜……つまり今時分からだろうな」
「はい」
「今行けば、救えるかもしれない。しかし、既に死んでいる可能性もある。後者の場合、そこにユースティティアの隊員がいる意味は解るか?」
「ユースティティアの隊員がいることで、調査不足で問題が起きたと報じられ、信頼が失われることになります」
「そうだ。行かなければ、本件はユースティティアは正式に受理していないことから、いくらでも言い逃れができる。だが、隊員がいればどうにもならない。死体を見つけて、無視すると更に問題になる。百害あって一利なしだ」
「はい。自分が調査した際、松下優也は警察の調査も受けたと言っていました。それは嘘かもしれませんが、そのことを言ったところで警察も正式に受理した案件でない以上、先程言ったように自由に言い逃れするでしょう。自分が行くことにユースティティアとしてのメリットはありません」
「解っているじゃないか」
「それでも、自分は行きます」
 有栖ははっきりと言い放った。それは今日まで悩み、考え、導いた答えだからこそ言葉は濁らず真っ直ぐに伝えてみせた。しかし、それは彼女の中だけで完結した答えであり、佐倉は納得しない。再び、睨み、怒号が響く。
「貴様にはユースティティアの権威を守る――隊員としてのプライドはないのか!」
 佐倉の言葉に場は静まった。重たい空気の中、発言を許されるのは有栖かフォローをする一色のみだ。全員が一色がフォローするのだろう、と思う中、口を開いたのは――有栖だった。
「自分は権威というものがどれだけ大事か解りません。ですが、プライドならここ(ユースティティア)に残ると決めたときに捨てました」
 有栖はそう言って、佐倉の眼光に負けじと睨み返す。そして、自分の信念を吐き出した。
「その代わり、理不尽に屈せず、目に映る弱い誰かを守れるように、自分は強くなったんです」
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