有栖と奉日本『ファントムケースに御用心』

ぴえ

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 一色から全ての真相を聞いた有栖は、六日目以降、コーポ松下の調査を中止した。もちろん、彼女としては本意ではない。だが、
「これ以上は何もしない方が松下優也の生存確率が高くなる」
 と、忠告した一色の言葉が楔のように打ち込まれ有栖は何もできなかった。

 調査を強行すれば、ユースティティアが警察の作った案件を受理したと思われ、失墜を目的に松下優也は殺される。
 ここで調査を止めて、この案件が正式ではないルートで処理されたことに気づいたことを解らせれば、松下優也は役に立たない。それならば、殺されることはない――

「ですが、それは警察が手を引くだけです。詩島組の件は何も解決していないでしょう!」
 有栖もその不確定さを理解している。賢く見て見ぬふりのできない彼女は一色に訴えた。
「詩島組は松下優也には土地と併せて借金をチャラにする提示をしているようや。それを信じるしか――」
「武闘派のヤクザの言うことを信じろと? イチさん、それは無理なのは解っているでしょう!」
 一色が全てを理解しながら自分を説得しようとしていること。そして、それを受け入れられないこと。その感情が行き場をなくし、見当違いだと解りながらも一色に対し、有栖は怒鳴る。
「……保護しましょう」
 有栖がぽつりと呟くように言った。
「そうですよ、保護しましょう。松下優也を保護すればいい。そうすれば――」
「ユースティティアは市民からの依頼を受理しないと動けない。そして、保護に関しては当人の合意と事件性の判断ができないと長期の保護ができない。一時的な保護だと二、三日だ」
「二、三日で問題ないでしょう。松下優也に全てを話して保護を依頼するように促す。保護している間に詩島組を調査して事件性を暴けば――」
「極秘の任務もあるのにか? 仮に失敗、もしくは松下優也が承諾しなかったり、依頼として受理するまでにちょっとでも時間を要すれば全てを知った彼は確実に殺される。この事件性が不透明で中途半端な状況やと俺らは注意喚起レベルしか動かれへんし、詩島組に何もできん」
「だから、動くなってことですか! 市民が殺される可能性は無視して、低確率の生存する可能性を信じろってことですか! 事件性を確実にする為に松下優也が死ぬまで待てってことですか!」
 有栖の怒号に一色は沈黙で答える。それを理解して彼女は目の前にある机に拳を叩きつけてその場から出ていった。

 そして、事件が起きるまで何もできないユースティティアの有栖は六日目、七日目と無力さに奥歯を噛みしめ、苛立ちと共に極秘の任務まで日を重ねた。
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