有栖と奉日本『ファントムケースに御用心』

ぴえ

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「警察……え? どういうことですか?」
 一色の発言を有栖は理解できず、重要であろうキーワードだけを呟くと、詳細の説明を求めた。
「警察と詩島(しじま)組、というヤクザが共謀して創った案件や。まぁ、詩島組がしたかったことに警察が乗っかった形みたいやけど」
「もうちょっと詳細に説明してくれないと解りません」
「せやな。詩島組は知ってるか?」
「武闘派の反社組織ですよね? 結構、色々と問題を起こしては捕まってる」
「そうそう。その詩島組は警察と協力関係を結んでる。詩島組が問題を起こしても、警察に上納金を納めることで内密に釈放してもらったり、警察の依頼で詩島組が問題を起こしたり」
「腐ってますね、相変わらず」
「とはいえ、昔の話で、今はその関係も薄い、とは聞いてたけどな。それでも薄いながらも繋がりはあった、ということやな」
「それで、今回の自分が受けた案件に警察と詩島組がいた、としてその意図は何ですか?」
 一色の説明で、警察と詩島組の関係は解った。しかし、ユースティティアにコーポ松下の調査をさせたかった意図が見えない。
「近々、極秘の任務があるやろ?」
「はい、自分とイチさんも呼ばれているやつですね」
「その件はユースティティアが担当することになったやろ? 成功すれば当然のことながら大きく報道され市民の信頼を得ることになる。これが警察にとっては面白くないわけや」
「面白い、面白くないより、大事なのは巨悪を捕まえ、悪事を事前に防ぐことだと思いますけど」
「正論やけど、世の中を掌握したい奴らからすれば綺麗事や。せやから、警察の一部がユースティティアの失敗を作ることに動いた。それがこの案件や」
「失敗?」
「これはユースティティアが正式に受理した案件として処理し、調査すると失敗するようになってる。極秘任務の成功の裏にはとんでもない失敗がありました――そんなニュースを流したいんやろ。マイナスの要素を市民に見せて、少しでも信頼を失わせておきたい。そんなとこや」
 一色の話を聞いて、有栖は呆れてため息を一つ。心底くだらない、といわんばかりだった。
「この案件、幽霊調査ですよ? それが解決しないところで、そこまで騒ぎにはならないし、問題にもならないでしょう」
 そう言った有栖に対し、一色も笑ってくれるだろう、と思っていたが彼の表情は何かに耐えるように、悔しさを噛みしめるように、辛そうな表情をしていた。そこから有栖は何かを察したように、一つ尋ねる。
「イチさん。このコーポ松下の件……このまま調査を続ければ、どうなりますか?」
 有栖の質問に、一色はゆっくりと言葉を吐き出す。

「松下優也は――殺される」
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