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有栖-3
有栖-3-4
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「問題があるのはその佐藤さんに紙を渡した先輩――加藤って女子社員やな」
「あぁ、佐藤さんが忙しいって言っていた先輩ですね」
「そうや。その先輩は退職手続きで忙しかったみたいやけど」
「退職手続き……ですか?」
「そうそう。けど、円満退社、とはいかなかったけどな」
一色の表情に少しだけ悲しそうな表情を読み取り、有栖は首を傾げる。
「何があったんですか?」
「……有栖からこの紙を受け取ったとき、俺は受領のフローに違和感があったから承認はせずに止めて、実態を調査した。結果はさっきの加藤って女子社員が外部から報酬を受けて、この紙を作成し、課長が不在中に受領印を押して、課長印もこっそり拝借して押したみたいやわ。ほんで、後輩に頼んで直接実務部隊に紙を渡すように指示したんや」
そこまで暴かれているのならば、円満退社、とは確かにいかない。加藤は然るべき処罰を受けることになるだろう。
「それを受け取ったのが自分、ということですか」
「せやな。偶然、有栖が受け取って、偶然、俺が違和感を覚えて止めた。不幸中の幸いや。流れ作業で電子フローに登録してたら、正式な案件として処理されるとこやった」
「すみません。自分も安易に受けました」
「謝ることあらへんよ。過程はどうあれ正式な案件にならず、止めることができた。問題児が受けた案件やから注意深く書類を見る癖がついてて良かったわ」
「その嫌味に何も返せない自分に苛立ちます」
「冗談や。他の奴が受けてたら最悪の事態になってた。俺達やから止められた、それだけや」
「……いくつか疑問があります。聞いても良いですか?」
一色の言葉を今は素直に飲み込めない有栖は、とりあえず、別の気になることを処理することで流すことにした。
「どうぞ」
「コーポ松下の調査、という案件自体は存在しているのですか? 調査を行っている限りでは管理人との話はスムーズでした」
「存在するかしないか、でいうと存在はしとる。案件の内容が幽霊関係、というよりは案件自体が幽霊って感じやな」
「正直、意味が解りません。そもそも、この案件を加藤に依頼した外部ってどこですか? その目的は――」
「警察や」
一色の言葉は間隙の縫うように狙ったように有栖の耳に届き、彼女の言葉を止めた。
「え?」
「この案件は警察によって創られた案件や」
「あぁ、佐藤さんが忙しいって言っていた先輩ですね」
「そうや。その先輩は退職手続きで忙しかったみたいやけど」
「退職手続き……ですか?」
「そうそう。けど、円満退社、とはいかなかったけどな」
一色の表情に少しだけ悲しそうな表情を読み取り、有栖は首を傾げる。
「何があったんですか?」
「……有栖からこの紙を受け取ったとき、俺は受領のフローに違和感があったから承認はせずに止めて、実態を調査した。結果はさっきの加藤って女子社員が外部から報酬を受けて、この紙を作成し、課長が不在中に受領印を押して、課長印もこっそり拝借して押したみたいやわ。ほんで、後輩に頼んで直接実務部隊に紙を渡すように指示したんや」
そこまで暴かれているのならば、円満退社、とは確かにいかない。加藤は然るべき処罰を受けることになるだろう。
「それを受け取ったのが自分、ということですか」
「せやな。偶然、有栖が受け取って、偶然、俺が違和感を覚えて止めた。不幸中の幸いや。流れ作業で電子フローに登録してたら、正式な案件として処理されるとこやった」
「すみません。自分も安易に受けました」
「謝ることあらへんよ。過程はどうあれ正式な案件にならず、止めることができた。問題児が受けた案件やから注意深く書類を見る癖がついてて良かったわ」
「その嫌味に何も返せない自分に苛立ちます」
「冗談や。他の奴が受けてたら最悪の事態になってた。俺達やから止められた、それだけや」
「……いくつか疑問があります。聞いても良いですか?」
一色の言葉を今は素直に飲み込めない有栖は、とりあえず、別の気になることを処理することで流すことにした。
「どうぞ」
「コーポ松下の調査、という案件自体は存在しているのですか? 調査を行っている限りでは管理人との話はスムーズでした」
「存在するかしないか、でいうと存在はしとる。案件の内容が幽霊関係、というよりは案件自体が幽霊って感じやな」
「正直、意味が解りません。そもそも、この案件を加藤に依頼した外部ってどこですか? その目的は――」
「警察や」
一色の言葉は間隙の縫うように狙ったように有栖の耳に届き、彼女の言葉を止めた。
「え?」
「この案件は警察によって創られた案件や」
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