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有栖-3

有栖-3-3

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「どういうことですか?」
 一色の発言を理解できない有栖は、彼を睨みながらそう言った。
「そんな怖い顔すんな。気持ちは解るけど、話を聞いてからにしてくれ。まぁ、聞いたからといって納得するとは思わんけど……」
 一色の表情は決まりが悪そうだ。彼自身も今から話すことに納得がいっていないように見える。
「とりあえず話は聞きます」
「そりゃ助かるわ」
「早くしてください」
「少しは冷静になれ。感情的になってる奴に説明しても無駄やろ」
 柔らかくも有栖に注意する口調を聞くと、彼女も大きく呼吸を数回繰り返し、聞く体勢を整える。
「すみません。お願いします」
「了解。まずは、これを見ながら話そか」
 一色はポケットから一枚の紙を取り出すと、広げて二人の間に置く。机の上にあるのは有栖が受付から受け取った依頼書だった。
「自分が受け取った依頼書ですね」
「せやな。基本は受付が処理するのは電子媒体が主流やけど、紙媒体も未だ存在しとる。これは後者の方やな」
「はい、自分が受付の社員から受け取りました」
「せやな。けど、これ正式な手続きで処理された書類やないんや」
「え? でも、受付の受領印も、庶務課の課長印も押印されてますよ」
 有栖の指摘は正しく、ユースティティアの庶務課で作られたフォーマットに押されるべき検印の処理はされている。
「紙の書類でも、本来ならここから課長が電子フローに乗せるのが正式な手順や。確かに、重要な案件や急ぎの案件なら手渡しで実務部隊の俺達に持ってくる場合もあるけど――この案件が該当すると思うか?」
 言われてみれば確かに、と有栖は思う。重要ではなく、簡易的に取り扱えそうな案件だからこそ彼女も引き受けたのだ。そういった意味では、この書類には違和感が生じる。
「佐藤さん……でしたっけ? 彼女から受け取りましたけど」
 有栖はトイプードルのような女子を思い出す。とても人を騙すようなタイプには見えなかったが、それは有栖の認識でしかない。
「俺の方でも調べてみたけど、彼女は渡された書留を指示に従ってそのまま渡しに来ただけみたいや。彼女は人を騙せるようなタイプやないやろ」
「自分の認識が合っていてホッとしました」
 有栖の中でトイプードルを妖怪のような狼に変化させようとしていたが、一色の言葉を聞いて、佐藤に再びトイプードルの面影を重ねておいた。
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