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有栖-3
有栖-3-2
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「有栖、ちょっと良いか?」
ユースティティアの事務所に戻った有栖は自席に座って、蒸し暑さでかいた汗が引くまで涼んでいたが、そこに席を外していた一色がどこからか戻って来て事務所の出入口から彼女に声をかけた。
「何ですか?」
「ちょっと来い」
「はぁ……」
一色に手招きされ、有栖は立ち上がり、彼に近付く。
「会議室まで来てくれ」
「え? 自分、何かしました?」
「何や? 心当たりでもあるんか?」
「……へへ」
「怖い笑いせんといてくれ。行くで」
そんな会話のキャッチボールを交わすと、二人は会議室まで歩く。その間に有栖は二、三回ほど一色に何の用か聞いたが、
「ちょっと面倒なことがあった」
と、答えるだけで何も教えてくれないので彼女は追求を諦めた。
一色の後ろを歩いて着いたのはユースティティアに複数ある会議室の中で最も小さいタイプの一室だった。中には四人分のイスと長机が置かれている八畳ほどのスペースだ。
「まぁ、座ってや」
一色が先に座って、有栖に対面に座るように促す。彼女も自然な流れで、座る。
「それで、何かありました?」
「まぁ、何かあったからここに呼び出したんやけどな」
「でしょうね」
普段の一色なら事務室で雑談混じりに仕事の話をしてくれる。だが、今回のようにわざわざ個室を用意して話す、ということは重要な話だということは有栖も察していた。しかし、このとき、彼女の頭にあったのは極秘で行われる任務に関することだと思っていたのだが――
「有栖、コーポ松下の件、調査は中止しろ。このことは上長にも報告済みや」
予想外の一色の言葉に、有栖は思考を停止させ、顔を強張らせた。
ユースティティアの事務所に戻った有栖は自席に座って、蒸し暑さでかいた汗が引くまで涼んでいたが、そこに席を外していた一色がどこからか戻って来て事務所の出入口から彼女に声をかけた。
「何ですか?」
「ちょっと来い」
「はぁ……」
一色に手招きされ、有栖は立ち上がり、彼に近付く。
「会議室まで来てくれ」
「え? 自分、何かしました?」
「何や? 心当たりでもあるんか?」
「……へへ」
「怖い笑いせんといてくれ。行くで」
そんな会話のキャッチボールを交わすと、二人は会議室まで歩く。その間に有栖は二、三回ほど一色に何の用か聞いたが、
「ちょっと面倒なことがあった」
と、答えるだけで何も教えてくれないので彼女は追求を諦めた。
一色の後ろを歩いて着いたのはユースティティアに複数ある会議室の中で最も小さいタイプの一室だった。中には四人分のイスと長机が置かれている八畳ほどのスペースだ。
「まぁ、座ってや」
一色が先に座って、有栖に対面に座るように促す。彼女も自然な流れで、座る。
「それで、何かありました?」
「まぁ、何かあったからここに呼び出したんやけどな」
「でしょうね」
普段の一色なら事務室で雑談混じりに仕事の話をしてくれる。だが、今回のようにわざわざ個室を用意して話す、ということは重要な話だということは有栖も察していた。しかし、このとき、彼女の頭にあったのは極秘で行われる任務に関することだと思っていたのだが――
「有栖、コーポ松下の件、調査は中止しろ。このことは上長にも報告済みや」
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