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有栖-3
有栖-3-1
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初日以降、有栖はコーポ松下の調査を愚直に勤めた。
昼頃に直接コーポ松下へ向かい、住民へ聞き込み。これは有栖が帰ったあとに、物音がなかったか、誰か見なかったか、と何かしらの事象が発生していないかを確認する為だ。
そのあとは高本のカフェで昼食を済まし、ユースティティアの事務所で一色に現状の報告。事務仕事を片づけると極秘の案件に関する前線対象者の訓練等を実施。
定時後には再びコーポ松下へ足を運び、管理人にも現状の報告と張り込み開始を連絡。そのあとは深夜三時まで張り込み――これが有栖のルーティーンだった。
張り込みは根気のいる業務であるが、有栖は誠実に真面目に手を抜くことなく従事した。
「今日も何もなし……か」
張り込みを開始し、五日目の昼。この日も住民に聞き込みを実施したが、得られた情報はなにもなかった。誰も、問題の部屋に人が出入りするところを見ることはなかったし、物音もない、とのこと。それは深夜まで張り込みをしている彼女が外から見ているときも同じだった。
何もない、という調査報告は一見、朗報にも思えるが実際に噂が出ている以上、何かしらの要因はあると考えるべきだ。老朽化の軋み、ホームレスが勝手に上がり込んでいた……等々、そのような要因を見つけ、除去ができてこそ依頼した人は安心できるものだ。何もない――これは何も見つけることが出来なかったに等しく、依頼者の不安は完全に拭いきれない。
「火のないところに煙は立たないと思うし――完全なデマが流布した可能性も検討するべき? その場合は……」
ぶつくさと自身の考えを呟きながら有栖は三階から一階へと向かって階段を降りる。そのとき、
「あ、管理人さん」
一階の郵便受けを見ている松下優也を見つけ、有栖は声をかけた。
「あぁ、有栖さん。どうも」
彼もまた有栖の声に反応すると、一礼した。未だ視線は合わないことが多いが、それでも名前を呼んでくれるほどには信頼を築けているようだ。
「すみません、今日も報告できることがありません」
「いえ、有栖さんが真剣に対応してくれていることは知っていますので、謝る必要はありません。きっと、冗談半分で書き込んだインターネットの噂が広まったんですよ」
「そうなんですかね……」
有栖は松下優也の話を聞いて、頭を書きながら考えこむ。そのとき、彼女は少し目を瞑りながら考えていたので、気づかなかった。松下優也が思い詰めるような顔をしていたことに。
「あ、あの――」
「そういえば、この件がデマなら弊社の情報システムに依頼して発信源を突き止めるように依頼してみましょうか? 時間はかかりますが、特定できる可能性があります」
偶然にも、有栖は松下優也の言葉を遮った。彼は何かを飲み込むように、俯くと、再び顔を上げて愛想笑いを見せた。
「いえ、そこまでは結構です。期日まで調査してい頂ければ充分なので。もちろん、何も見つからなかったとしても」
「わかりました。引き続き、調査しますね」
有栖はそう言って、一礼を返した。
昼頃に直接コーポ松下へ向かい、住民へ聞き込み。これは有栖が帰ったあとに、物音がなかったか、誰か見なかったか、と何かしらの事象が発生していないかを確認する為だ。
そのあとは高本のカフェで昼食を済まし、ユースティティアの事務所で一色に現状の報告。事務仕事を片づけると極秘の案件に関する前線対象者の訓練等を実施。
定時後には再びコーポ松下へ足を運び、管理人にも現状の報告と張り込み開始を連絡。そのあとは深夜三時まで張り込み――これが有栖のルーティーンだった。
張り込みは根気のいる業務であるが、有栖は誠実に真面目に手を抜くことなく従事した。
「今日も何もなし……か」
張り込みを開始し、五日目の昼。この日も住民に聞き込みを実施したが、得られた情報はなにもなかった。誰も、問題の部屋に人が出入りするところを見ることはなかったし、物音もない、とのこと。それは深夜まで張り込みをしている彼女が外から見ているときも同じだった。
何もない、という調査報告は一見、朗報にも思えるが実際に噂が出ている以上、何かしらの要因はあると考えるべきだ。老朽化の軋み、ホームレスが勝手に上がり込んでいた……等々、そのような要因を見つけ、除去ができてこそ依頼した人は安心できるものだ。何もない――これは何も見つけることが出来なかったに等しく、依頼者の不安は完全に拭いきれない。
「火のないところに煙は立たないと思うし――完全なデマが流布した可能性も検討するべき? その場合は……」
ぶつくさと自身の考えを呟きながら有栖は三階から一階へと向かって階段を降りる。そのとき、
「あ、管理人さん」
一階の郵便受けを見ている松下優也を見つけ、有栖は声をかけた。
「あぁ、有栖さん。どうも」
彼もまた有栖の声に反応すると、一礼した。未だ視線は合わないことが多いが、それでも名前を呼んでくれるほどには信頼を築けているようだ。
「すみません、今日も報告できることがありません」
「いえ、有栖さんが真剣に対応してくれていることは知っていますので、謝る必要はありません。きっと、冗談半分で書き込んだインターネットの噂が広まったんですよ」
「そうなんですかね……」
有栖は松下優也の話を聞いて、頭を書きながら考えこむ。そのとき、彼女は少し目を瞑りながら考えていたので、気づかなかった。松下優也が思い詰めるような顔をしていたことに。
「あ、あの――」
「そういえば、この件がデマなら弊社の情報システムに依頼して発信源を突き止めるように依頼してみましょうか? 時間はかかりますが、特定できる可能性があります」
偶然にも、有栖は松下優也の言葉を遮った。彼は何かを飲み込むように、俯くと、再び顔を上げて愛想笑いを見せた。
「いえ、そこまでは結構です。期日まで調査してい頂ければ充分なので。もちろん、何も見つからなかったとしても」
「わかりました。引き続き、調査しますね」
有栖はそう言って、一礼を返した。
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