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有栖-2

有栖-2-7

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 その日の夜、有栖はコーポ松下の張り込みを開始した。
 管理人の松下優也から問題となっている部屋の鍵は預かっている。彼は張り込みの間だけなら、と管理人室の使用を許可してくれた。しかし、その間は彼自身は外部で寝泊まりする必要があり、また、費用削減が理由でコーポ松下に監視カメラ等がないので部屋の中にいて映像確認ができないのならば、そこまでの有用性を感じないので、有栖は断った。
 幸いにも梅雨時期ではあるが、日中は蒸し暑くても夜は湿度の高さは感じながらもほどほどに涼しく、充分に耐えられる。

 時刻は二十時。少し離れた場所で、有栖は観察をしていたがこの時間帯は住民達が帰ってきたり、前の道を往来する人々も散見されたり、と人の動きは活発だった。しかし、問題の部屋に近付くような人物は現れなかった。

 時刻は二十二時。コーポ松下の周辺を往来する人は少なく、部屋に入る人はいない。

 時刻は零時。部屋に入るような人はいない。また、往来の人もいなくなる。不審者、といえば有栖が該当するぐらいだ。

 時刻は深夜二時。
「そろそろ引き際かな」
 有栖はそう呟くと、ポケットから問題となっている部屋の鍵を取り出し、コーポ松下へと向かう。時間帯が深夜の為、階段を上る足音に自然と注意を払い三階へ。
 問題の部屋につくと、少しだけ緊張を感じながらドアノブに鍵を差し込み、ゆっくり回す。
 がちゃり、という音が妙に響いたように感じたのは彼女が集中していたからだろう。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか……それともやっぱり幽霊か」
 真っ暗の空間に足を踏み入れて、ドアを閉める。
「懐中電灯ぐらい持ってきとくべきだったかな」
 その考えは全くなかったわけではない。暗いと解ってはいたが、周囲の街頭の光が差し込んでそこそこ明るいだろう、と思っていた。それに、
「今は便利な物があるしね」
 そう呟いて、スマホを操作しライト機能をオンにする。眩い光が放たれ、暗闇が切り裂かれる。
 スマホを振りながら、室内を見渡す。部屋の電気は通ってないのでこの方法しかないが、それでも光で照らす場所を数回変えれば充分に見渡せる。
「異常なし」
 有栖はそう言うと、部屋を出て行った。
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