有栖と奉日本『ファントムケースに御用心』

ぴえ

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 梅雨時期の薄っすらと曇った天候の中を歩き、有栖は行きつけのカフェに到着した。出入口のドアにはクローズの表示がかかっていて、既にランチタイムは終了している。今は夕方からバーへと切り替える為の準備中だろう。
 少し立ち止まっていた有栖だが、蒸し暑さに負けてドアを開けて中に入る。
「有栖さん、いらっしゃいませ」
 抵抗もなく開いたドアの向こうでは除湿の聞いた涼しい店内と爽やかな青年――この店のマスターである高本が笑顔で歓迎してくれた。
「ランチ、いいですか?」
「もちろん、どうぞ」
 快く承諾され、有栖はカウンター席に座り、高本はランチの準備をする。
 このように話が流れるように進むのは、過去に有栖が任務の最中に高本を助けたことがあり、そこから親しくなった経緯の中で彼女はランチタイムが終了したこの店の切り替え時間にランチを提供してもらえる特例を受けているからだ。
 甘えてるのも悪いよな、と有栖の中に罪悪感に近いものは芽生えてはいるが、結局はこの店の料理の味に負けている。お金は払っているし、という言い訳を添えて。
「お待たせ致しました」
 高本がそう言って提供したのはカルボナーラだった。たっぷりのチーズソースの中に、平打ち麺とベーコンが泳いでいる。
「いただきます」
 そう言って、有栖はフォークでパスタとソースを絡ませて口に運ぶ。濃厚なソースは平打ち麺と良く合い、口の中にチーズの香りと味が広がり、数回の呼吸が幸せになる。所々で舌と鼻孔を刺激する胡椒とこんがり焼いたベーコンがアクセントとなり、飽きることなく食欲を促進し続けた。
「食後のコーヒーはアイスで良いですか?」
「お願いします」
 蒸し暑い気温を考慮した高本の提案に有栖は口元にソースをつけたまま頷いた。
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