有栖と奉日本『ファントムケースに御用心』

ぴえ

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「ユースティティアの記事もよく載るようになったなぁ」
 ある日、ユースティティアの事務所で一色は新聞を広げてそう言った。彼の言葉は独り言には大きく、空中に放り投げられたボールのように取りたい人がいたら取っても良い、無視されたら無視されたで構わない、選択権を聞き手に任せた発言だった。
 そして、その聞き手は事務所に一人しかいない有栖に委ねられる形となり、事務仕事が忙しければ無視するが片手間で充分に処理できる範囲かつ、ちょうど集中力が切れかけていた彼女は耳に入った言葉に反応する。
「小さい記事ばっかりですけどね」
 キーボードを叩く指を止め、有栖は一色に顔を向けて話す。
 一色の言った通り、治安維持組織のユースティティアの功績は新聞の記事となり散見される。一方で、有栖の指摘通りその記事の一つ一つは小さい。一面を飾るのはユースティティアと相対する警察の功績だ。
「大きさが全てやないで。取り上げてもらうことが大事なんや。それだけ市民の目に入るし、信頼を得られるきっかけになる。千里の道も一歩から。三歩進んで二歩下がるや」
「下がらない方が良くないですか?」
「……せやね」
 有栖の正論に苦笑いしながら、一色は新聞のページを捲る。そこは警察もユースティティアの記事もない平和なスポーツ面だった。
 その様子を見た有栖は再び事務仕事に戻ろうとするが、そこにもう一つ一色の言葉が飛び込んだ。
「せやけど、今度の任務は成功すると大きな記事になるんとちゃうか?」
「あぁ、上層部が動いてるやつですね」
 一色が何を指しているかは容易に想像がついた。
 近々、とあるヤクザの組と海外マフィアにて銃器の取引があり、その一斉検挙をユースティティアが行う――機密情報としては極秘に該当する任務が特別に編成されるチームのメンバーにのみ知らされていた。
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