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有栖_4

有栖_4-2

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「それが解ったとして、何? 悪いけど放っておいてくれ。心配しなくても、もう少しこの施設を見せてくれたら捕まってあげるから」
 反保は再び施設の方へと振り返ると有栖に背を向けた。
「悪いけど放っておけない」
 そう言って、有栖は一歩踏み出す。
「は?」
「知ったからには何もしないまま終わらせるわけにはいかない。このまま捕まえただけなら、お前は救われない。自分はお前を放っておけない」
「邪魔するな」
「いや、自分はお前と向かい合う。話をする。そして、捕まえるんだ」
「意味が解らない。でも、オレの邪魔をするなら――」
 反保はナイフを取り出し、左手に構える。
 一方で有栖は無線で一色に連絡をした。
「反保緋桐と接触」
『無茶すんなよ。色々複雑やからな』
「大丈夫ですよ、自分は話し合いをするだけです」
 有栖は一色との会話を終えると大きく深呼吸をして、反歩に向かって歩き出した。
「何が話し合いだ。暴力で蹂躪するだけだろ」
 反保としては相手に自身が無痛であることを知られている。その点に対してどう戦ってくるか……まずは様子見でナイフで突きを繰り出し、距離を取りながら戦うつもりだった。
「――なっ!!」
 反保がナイフを突き出した瞬間、彼にとっては予想外の出来事が起きた。
 有栖がそのナイフの刃を右の掌で受け止めたのだ。刃は掌を貫き、血が飛び散る。しかし、彼女は動じることなく、ナイフごと反保の手を握った。
 そして、更に一歩踏み込み、左の手で反保の空いていた右手首を掴んだ。そのまま顔を向かい合わせ、有栖は不敵に笑い、彼と顔を突き合わせて、こう言った。
「さぁ、話し合いだ」
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