31 / 57
反保_3
反保_3-1
しおりを挟む
飛田がいた場所から逃げ出した反保はその日の深夜0時前に自分の住む家の近くまで帰ることができた。
「やっと着いた」
安堵のため息と共に疲弊した彼の呟いた一言は弱々しかった。
警察を刺した、という自覚があるが故に、ここまでの道程は周囲を警戒したり、普段通らない道を選んだり、と彼なりに工夫を凝らした為に帰路の時間は普段より三倍以上かかり、熱帯夜の中の移動は酷く彼を疲弊させた。そして、そんな彼の視界は未だに紅いままだった。
――感情が昂っている。
自身のした行動を振り返れば当然のことだ。理由はあれど、この世は結果だけを都合の良いように取り上げることを知っている彼は、ひとまずはほとぼりが冷めるまではどこかに身を隠すことにした。
不幸中の幸いなのか、自宅の周りには警察の姿はない。
急いで家に入り、ボストンバッグに数日分の衣類、貴重品を詰め込むと家を出る。警察は『まだ』来ていないだけで、家への滞在はリスクが高い。移動も考慮し、可能な限り身軽な方が良い、とも考えた。
「すみません」
家を出て数歩進んだときだ。女性に呼び止められ、足を止める。
振り返ると、そこにいたのは警察――ではなく、また別の治安維持組織であるユースティティアの制服を着ている女性の姿があった。
「ちょっと、話を――え?」
女性は言葉を途中で止めた。それは反保が既に手にナイフを握っていたからだ。
「次から次へと……」
それは短絡的で感情的な行動だった。反保は近寄る女性の話を聞かずにナイフを振るったのだ。この行動が既に彼が冷静さを失っており、精神的にも不安定な状態である証明でもあった。
「危なっ」
女性は反保の攻撃を避けたが、明らかに困惑している様子だった。だが、その細かい感情の機微を読み取ることは不可能なぐらいに、彼の視界は紅いままだった。
「やっと着いた」
安堵のため息と共に疲弊した彼の呟いた一言は弱々しかった。
警察を刺した、という自覚があるが故に、ここまでの道程は周囲を警戒したり、普段通らない道を選んだり、と彼なりに工夫を凝らした為に帰路の時間は普段より三倍以上かかり、熱帯夜の中の移動は酷く彼を疲弊させた。そして、そんな彼の視界は未だに紅いままだった。
――感情が昂っている。
自身のした行動を振り返れば当然のことだ。理由はあれど、この世は結果だけを都合の良いように取り上げることを知っている彼は、ひとまずはほとぼりが冷めるまではどこかに身を隠すことにした。
不幸中の幸いなのか、自宅の周りには警察の姿はない。
急いで家に入り、ボストンバッグに数日分の衣類、貴重品を詰め込むと家を出る。警察は『まだ』来ていないだけで、家への滞在はリスクが高い。移動も考慮し、可能な限り身軽な方が良い、とも考えた。
「すみません」
家を出て数歩進んだときだ。女性に呼び止められ、足を止める。
振り返ると、そこにいたのは警察――ではなく、また別の治安維持組織であるユースティティアの制服を着ている女性の姿があった。
「ちょっと、話を――え?」
女性は言葉を途中で止めた。それは反保が既に手にナイフを握っていたからだ。
「次から次へと……」
それは短絡的で感情的な行動だった。反保は近寄る女性の話を聞かずにナイフを振るったのだ。この行動が既に彼が冷静さを失っており、精神的にも不安定な状態である証明でもあった。
「危なっ」
女性は反保の攻撃を避けたが、明らかに困惑している様子だった。だが、その細かい感情の機微を読み取ることは不可能なぐらいに、彼の視界は紅いままだった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
有栖と奉日本『幸福のブラックキャット』
ぴえ
ミステリー
警察と相対する治安維持組織『ユースティティア』に所属する有栖。
彼女は謹慎中に先輩から猫探しの依頼を受ける。
そのことを表と裏社会に通じるカフェ&バーを経営する奉日本に相談するが、猫探しは想定外の展開に繋がって行く――
表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)
有栖と奉日本『不気味の谷のアリス』
ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第五話。
マザー・エレクトロン株式会社が開催する技術展示会『サイバーフェス』
会場は『ユースティティア』と警察が共同で護衛することになっていた。
その中で有栖達は天才・アース博士の護衛という特別任務を受けることになる。
活気と緊張が入り混じる三日間――不可解な事故と事件が発生してしまう。
表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)
有栖と奉日本『垂涎のハローワールド』
ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第七話。
全てはここから始まった――
『過去』と『現在』が交錯し、物語は『未来』へと繋がっていく。
表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
有栖と奉日本『ファントムケースに御用心』
ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第二話。
少しずつではあるが結果を残し、市民からの信頼を得ていく治安維持組織『ユースティティア』。
『ユースティティア』の所属する有栖は大きな任務を目前に一つの別案件を受け取るが――
表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……
有栖と奉日本『ミライになれなかったあの夜に』
ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第八話。
『過去』は消せない
だから、忘れるのか
だから、見て見ぬ振りをするのか
いや、だからこそ――
受け止めて『現在』へ
そして、進め『未来』へ
表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる