10 / 57
有栖_1_2
有栖_1-6
しおりを挟む
「どうしました?」
有栖が田中の方に顔を向け、思考を一旦止める。
「いやー、有栖さん。ここに到着したのが随分と早かったじゃないですか? ユースって拠点が少ないのに何でかな、と気になりまして」
どうやら単なる雑談のようだ。普段の有栖なら適当に流すところだが思考が乱れたこともあり、気分転換の一環で応じることにした。
「あぁ、帰宅途中で偶然近くにいたんですよ。そういう田中さんも早かったじゃないですか」
「俺も似たようなもんです。この近所の派出所勤めなんで、近隣をパトロールしてたら通報が来たんですよ」
最初に会ったときから感じていたが、この田中という男はフレンドリーで話しやすい。口調は穏やかで表情はころころ変わり、同じ目線で話してくれているのが解る。これは警察の本部より、派出所で市民に密接に関わっているから身についたことかもしれないな、と有栖は思った。
「今日は日中から、あちこちで問題が起きてて朝から今までずっと外周りですよ。その上、この暑さでしょ? 熱中症で倒れるかと思いましたよ……あぁ、すみません愚痴っぽくなって」
「いえ、確かにこの暑さで一日中、外にいるのは辛いですね」
その話を聞いたあと、田中のシャツを見るとインナーシャツが僅かに透け、張り付いていた。
「ですよねー。そして、本日最後に大きな事件ですよ。対応するのが警察にしろ、ユースにしろ早く解決して、市民が安心して暮らせると良いですよねー」
田中の発言を聞き、有栖は驚いた。警察とユースティティアは対立する組織――だから、相容れない、というのが常識で、有栖にもその認識がある。だが、彼女としてはそんないがみ合いは面倒なことで、事件の解決と市民の安全が第一だった。その同様の考えを田中は持っている。そんな警察と初めて出会ったからだ。
「全くです」
田中は若い。だから、あまり警察に根付く固執した考えはないのかもしれない。彼のような柔軟な考えの人間もいる――警察だから、という偏見を持った判断と対応は良くないな、と有栖は考えを改める。彼も、彼女自身も、この考えのまま経歴を重ねることが出来たなら、警察とユースティティアが協力し合う未来もあるのかも、と思うと彼女は小さく笑った。
「有栖さん」
有栖と田中の会話の間隙を縫って、聞き覚えのある声が飛び込んだ。彼女がその音の方へと向くと、アパートの入り口付近で高本が優しく微笑んで手を振っていた。
有栖が田中の方に顔を向け、思考を一旦止める。
「いやー、有栖さん。ここに到着したのが随分と早かったじゃないですか? ユースって拠点が少ないのに何でかな、と気になりまして」
どうやら単なる雑談のようだ。普段の有栖なら適当に流すところだが思考が乱れたこともあり、気分転換の一環で応じることにした。
「あぁ、帰宅途中で偶然近くにいたんですよ。そういう田中さんも早かったじゃないですか」
「俺も似たようなもんです。この近所の派出所勤めなんで、近隣をパトロールしてたら通報が来たんですよ」
最初に会ったときから感じていたが、この田中という男はフレンドリーで話しやすい。口調は穏やかで表情はころころ変わり、同じ目線で話してくれているのが解る。これは警察の本部より、派出所で市民に密接に関わっているから身についたことかもしれないな、と有栖は思った。
「今日は日中から、あちこちで問題が起きてて朝から今までずっと外周りですよ。その上、この暑さでしょ? 熱中症で倒れるかと思いましたよ……あぁ、すみません愚痴っぽくなって」
「いえ、確かにこの暑さで一日中、外にいるのは辛いですね」
その話を聞いたあと、田中のシャツを見るとインナーシャツが僅かに透け、張り付いていた。
「ですよねー。そして、本日最後に大きな事件ですよ。対応するのが警察にしろ、ユースにしろ早く解決して、市民が安心して暮らせると良いですよねー」
田中の発言を聞き、有栖は驚いた。警察とユースティティアは対立する組織――だから、相容れない、というのが常識で、有栖にもその認識がある。だが、彼女としてはそんないがみ合いは面倒なことで、事件の解決と市民の安全が第一だった。その同様の考えを田中は持っている。そんな警察と初めて出会ったからだ。
「全くです」
田中は若い。だから、あまり警察に根付く固執した考えはないのかもしれない。彼のような柔軟な考えの人間もいる――警察だから、という偏見を持った判断と対応は良くないな、と有栖は考えを改める。彼も、彼女自身も、この考えのまま経歴を重ねることが出来たなら、警察とユースティティアが協力し合う未来もあるのかも、と思うと彼女は小さく笑った。
「有栖さん」
有栖と田中の会話の間隙を縫って、聞き覚えのある声が飛び込んだ。彼女がその音の方へと向くと、アパートの入り口付近で高本が優しく微笑んで手を振っていた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
有栖と奉日本『幸福のブラックキャット』
ぴえ
ミステリー
警察と相対する治安維持組織『ユースティティア』に所属する有栖。
彼女は謹慎中に先輩から猫探しの依頼を受ける。
そのことを表と裏社会に通じるカフェ&バーを経営する奉日本に相談するが、猫探しは想定外の展開に繋がって行く――
表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)
有栖と奉日本『不気味の谷のアリス』
ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第五話。
マザー・エレクトロン株式会社が開催する技術展示会『サイバーフェス』
会場は『ユースティティア』と警察が共同で護衛することになっていた。
その中で有栖達は天才・アース博士の護衛という特別任務を受けることになる。
活気と緊張が入り混じる三日間――不可解な事故と事件が発生してしまう。
表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)
有栖と奉日本『垂涎のハローワールド』
ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第七話。
全てはここから始まった――
『過去』と『現在』が交錯し、物語は『未来』へと繋がっていく。
表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
有栖と奉日本『ファントムケースに御用心』
ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第二話。
少しずつではあるが結果を残し、市民からの信頼を得ていく治安維持組織『ユースティティア』。
『ユースティティア』の所属する有栖は大きな任務を目前に一つの別案件を受け取るが――
表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)
ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
有栖と奉日本『ミライになれなかったあの夜に』
ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第八話。
『過去』は消せない
だから、忘れるのか
だから、見て見ぬ振りをするのか
いや、だからこそ――
受け止めて『現在』へ
そして、進め『未来』へ
表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる