有栖と奉日本『チープな刻の中で』

ぴえ

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上司と部下

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「そういえば、気になっていたことがあるんですけど……聞いてもいいですか?」
「俺に答えられることやったら」
「……僕は何故、警察に捕まらなかったんですか?」
 反保はずっと疑問に思っていたことを一色に尋ねた。
 以前――反保がユースティティアに所属する前に警察の『ある人物』と戦闘し、負傷させた。その後、紆余曲折があり彼はユースティティアに所属になったが、そのことが認められたことも、敵対している警察がそのことを外部にリークする等の攻撃をしてこないことも、疑問と不安として小さな鉛のように、ふと思い出されたときに確かに重く、違和感として存在していた。
「まず、反保をスカウトしたんは説明したよな?」
「はい。目の有効利用ですよね?」
「有能な奴は戦力として引き込みたいからな。んで警察に捕まらなかったのは――『あの事件』のおかげや。『あの事件』が警察の内部の人物が起こしたことは知ってるな?」
「はい。その場にいましたし」
 その事件は死亡者も出た無作為な傷害事件だった。当時は切り裂き魔として反保が容疑者となったが、結果は彼に全ての罪を擦り付けようとした別の犯人がいた。それが警察の人物だったので大きなニュースとして扱われた。
「あのとき、ユースティティアは先に犯人を確保し、世間に公表することもできた。けど、それをせんかったのは――」
「なるほど。僕が『取引の条件』ですか」
「察しが良いな」
 そこまで聞けば誰でも解る、と反保は思った。
 つまりは、ユースティティアとしては反保を引き入れたいが警察にそこを攻撃されたくない。警察はユースティティアに内部犯を逮捕、公表されたくない――そこで交渉が行われたのだろう。
 結果、ユースティティアは反保を手に入れ、警察は事件を自ら公表した。痛み分け、というには警察のダメージの方が大きかったように思えるが、対立している組織に公表されるよりは随分と軽い、ということなのだろう。
「対立しとるとはいえ、持ちつ持たれつの部分もあるってことや。警察側は対応が大変やったみたいやけどなぁ……知ってる奴も辞めたし」
「僕自身にそんな利用価値があるとは思えませんけど」
「価値についてはこれから上がるかもしれんやろ? それに、利用するんもお互い様で良いんやで」
「お互い様?」
「ユースティティアは反保を利用する。けど、反保もユースティティアを利用したら良い。お前の人生はお前のもんやし、お前の力もお前が使いたいときに使えば良い。ユースティティアを利用して良い人生が歩めるなら、それでも良いし、違うかったら別の方法を考えたら良い。まだ解らんなら、とりあえずは解るまでここにおったら良い。組織に恩義とか感謝とか重く、複雑に考えるなよ」
「良いんですか? そんなんで」
「良いよ。上司が言うとるんやから間違いない。組織の為に反保がおるんやない。反保が幸せになる延長線上に今はこの組織がおるだけや。せやから、頑張るんなら自分の為に頑張れ。それが組織の為になるなら、Win-Winや」
 反保が一色と話すことは何度もあったが、いつも思うことがあった。

 ――もっと早く、この人と出逢いたかったな。

 そうだったなら、自分のこれまでの人生はもう少し違ったのではないか、と考えてしまうのだ。それほどまでに、一色の言葉は優しく、強く、支えるように寄り添ってくれる。
「はい、解りました」
「まぁ、あんまり難しく考えないことやな。そんなことより、まずはもうすぐやってくる給料日のことでも考えとき」
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