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第七章:Catch22

京_7-1

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「はい、佐倉さん。無事に終わりました。問題はありません」
『承知した。では、報告し次のステップに進もう。高良組には連絡をしておく』
「お願いします。はい、失礼します」

 京は通話を切り、撤収作業をしている隊員達を会場の二階席から見下ろし、深く息をついた。その息は肺に溜まっていた不安で構成されており、外部に放出されて安堵に変わる。

 ――問題はありません、か。

 先程、自身が発した言葉に疑念を持つ。無事に終わったことは確かだが、京の頭の中には払拭できない疑念が蛇のようにまとわりついているように感じていた。

 ――今回の件、自殺だと確かに特定の人物に飲ませることが可能だけど。やはり確実ではない。

 棚神選手は確かに毒の誘惑に揺らいだ。しかし、打ち勝っていた可能性もある。結果的には飲まなかったが、実行犯があまりにも他人に任せすぎだ、と京は感じていた。
 少し調べれば団体内に明確な殺意を持った人物がいないことは解る。しかも、服毒させるタイミングが重要な計画において、

「やはり杜撰に感じる」

 京は思っていることを言葉にする。

 裏社会に借金があるから脅された
 実は元々、組と繋がっていた
 スタッフに紛れた組員だった

 このような人物が逮捕されれば納得できたかもしれない。しかし、今回の計画はあまりにも人任せで成功確率は低い。毒がユースティティア側に押収されれば、その源流が逮捕されるリスクもある。

「京さーん」

 一階から有栖の声が聴こえ、京は思考の回路の電源を切る。このままでは熱暴走しそうだったから丁度良かった。手を降っている彼女に自身も返した後、

「今から降りるわね」

 そう言って、歩き出す。

 ――解決したことに捕われ過ぎるのもよくないわね。まだスタートラインに立ったばかり……ここからが本番

 改めて気合を入れると、まずは部下を労おうと思考を切り替えるのだった。
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