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第七章:Catch22
反保_7-1
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石橋の言葉を聞き終えた反保は後ろをちらり、と確認した。海野と中島は苦虫を噛み潰したような表情をしており、あと数分もすれば石橋の発言を認める覚悟をしてしまいそうだ。
次に有栖を一瞥する。彼女の表情には既に迷いはなく、何を言うかを決めているようだった。そして、それは自身が言おうとしているものと同じだという確信があった。
「何もありませんでした」
「何もなかったけど?」
二人の声は重なったが、相手にはその意味が伝わったらしい。石橋は眉間に皺を作り、再びキャンキャンと吠える。
「そんなわけないだろ! じゃあ、その傷はなんだ!」
石橋は反保を指差す。
「これは先輩による鉄拳制裁です。教育的指導です」
反保は即答で返した。
横にいる有栖を見ると、目を大きく開き、口をパクパクと開閉を繰り返している。おそらく、彼女には彼女の言い訳を準備していたのだろうが、彼の嘘の方が早かったわけだ。
「……うちは生意気な後輩に対して拳で教育していますので」
有栖は苦笑いをしながら反保の言葉をフォローする。
「そ、そんなこと信じられ――」
石橋が諦めずに噛みつこうとしていると、静観していた飛田が吹き出し、大声で笑い出した。
「と、飛田さん?」
「あー、面白い。もういい行くぞ、石橋。相手の教育方針なら仕方ないだろ」
「信じるのですか?」
「怪我した本人がそう言っているんだ。お前、それをどうやって覆すんだ? 本来の目的である警備は無事に終わった。これ以上は蛇足だ」
「…………解りました」
「邪魔したな」
そう言って、渋々と納得していない石橋を部屋から連れて、飛田は去ろうとした。そこに、
「あの! その……ありがとう!」
反保は彼にそう言った。無事に解決できたのは彼の協力もあったことを充分に理解していた。
飛田は足を止め、
「またどこかで会うだろ。そのときは宜しくな」
振り向きもせずそう言うと、再び足を動かし、部屋から立ち去った。
次に有栖を一瞥する。彼女の表情には既に迷いはなく、何を言うかを決めているようだった。そして、それは自身が言おうとしているものと同じだという確信があった。
「何もありませんでした」
「何もなかったけど?」
二人の声は重なったが、相手にはその意味が伝わったらしい。石橋は眉間に皺を作り、再びキャンキャンと吠える。
「そんなわけないだろ! じゃあ、その傷はなんだ!」
石橋は反保を指差す。
「これは先輩による鉄拳制裁です。教育的指導です」
反保は即答で返した。
横にいる有栖を見ると、目を大きく開き、口をパクパクと開閉を繰り返している。おそらく、彼女には彼女の言い訳を準備していたのだろうが、彼の嘘の方が早かったわけだ。
「……うちは生意気な後輩に対して拳で教育していますので」
有栖は苦笑いをしながら反保の言葉をフォローする。
「そ、そんなこと信じられ――」
石橋が諦めずに噛みつこうとしていると、静観していた飛田が吹き出し、大声で笑い出した。
「と、飛田さん?」
「あー、面白い。もういい行くぞ、石橋。相手の教育方針なら仕方ないだろ」
「信じるのですか?」
「怪我した本人がそう言っているんだ。お前、それをどうやって覆すんだ? 本来の目的である警備は無事に終わった。これ以上は蛇足だ」
「…………解りました」
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