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第六章:名もなき毒
藤内_6-1
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「藤内選手……」
有栖が戸惑ったように名前を呼ぶと、
「飲んでないよ。その前に俺が止めた――いや、飲むかどうか迷っているところで俺が止めた。そう言った方が正しいか」
藤内選手が説明し、棚神選手が服毒していないことを知ると有栖は安堵の表情を見せた。
「どうやってここに?」
「警察の小さい彼――飛田くんだっけ? 彼が、貴女達の行った最短経路では揉め事が起きている可能性が高いから別の経路を勧められてね。結果的に、俺の方が早く着いたわけだ」
「なるほど」
「本来、対戦前に選手同士が会うのは御法度だが……文句があるわけないよな、棚神さん」
藤内選手が話かけると棚神選手は大きなため息をついた。
「藤内、これは俺が選ぶ団体にとっても、俺にとっても最高の結末だったんだよ」
棚神選手が嘲るように小さく笑う。だが、その対象は自分自身のように見えた。
「俺はリングの上で死んで伝説になり、団体は邪魔者だった俺がいなくなったことで堂々と海外進出も合併もできる。その為に必要なあらゆる根回しも済んでいる。ストーリーとしては完璧だ」
「完璧ねぇ……ハッ、どうやらこの団体の『太陽』は随分とその慧眼が曇ってしまったらしいな」
「……なんだと?」
棚神選手が藤内選手の言葉を聞いて、睨む。
「クソみたいなストーリーだ。確かに、リングの上で死んだ貴方を見て、多くの人は泣くだろうね。だけど、それは『感動』じゃない『悲しみ』の涙だ。それを見た子供がレスラーを目指そうと思うか? いいや、ありえないね。かつて、子供だった頃に輝いている貴方を見て、レスラーになった俺が言うんだから間違いない」
有栖が戸惑ったように名前を呼ぶと、
「飲んでないよ。その前に俺が止めた――いや、飲むかどうか迷っているところで俺が止めた。そう言った方が正しいか」
藤内選手が説明し、棚神選手が服毒していないことを知ると有栖は安堵の表情を見せた。
「どうやってここに?」
「警察の小さい彼――飛田くんだっけ? 彼が、貴女達の行った最短経路では揉め事が起きている可能性が高いから別の経路を勧められてね。結果的に、俺の方が早く着いたわけだ」
「なるほど」
「本来、対戦前に選手同士が会うのは御法度だが……文句があるわけないよな、棚神さん」
藤内選手が話かけると棚神選手は大きなため息をついた。
「藤内、これは俺が選ぶ団体にとっても、俺にとっても最高の結末だったんだよ」
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