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第五章:毒の在処
有栖_5-2
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有栖は藤内選手が言ったような言葉を、今日、何度も聞いた。
ハルカ選手からは、
「あの人がいたから成長できました。生意気だった俺を真正面から何度も受け入れて、闘って――何でもできると思っていた、何でも変えれると思っていたのですが、そんなに簡単じゃない、甘くない、ファンには認められない……そんな自分の未熟さに気づきましたね。それに気づかせて、向き合わせてくれたのが棚神さんです。あの人にしか教えられないことがたくさんある。だから、まだまだ頑張ってもらわないと」
ミサゴ選手からは、
「こっちに来た頃は――あぁ、実はこっちの言葉も喋れるんだ。棚神さんに教えてもらってね。それぐらいたくさん面倒を見てもらった。一流の選手は傲慢になりがちだけど、あの人は違う。困っているとき、誰にも相談できないときにはいつも彼の方から気づいてくれたよ。でも、これからは海外進出も視野に入れるからいつもの言葉で話した方が良いし、ファンもキミの話す言葉なら理解したくなってきっと勉強してくれる。聞こうとしてくれる。だから、そんな選手になるんだよって言ってくれて……その言葉のおかげで頑張ってこれた。俺は精神的に不安定な部分もあるからね、彼は俺のメンターであり憧れだ。彼のようになりたいし、その為の教科書はまだ読み終えていないよ」
スタッフは、
「棚神さんはこちらの意見をしっかり聞いてくれるし、理解もしてくれます。その上で選手側の意見を伝えてくれるので助かりますよ……私達じゃあ、レスラー側の気持ちは解らないことも多いですから。しっかりと橋渡しをしてくれるし、意見が合わないときは何度も話し合ってくれます。無理に意見を通そうとはしないですね。おかげで弊社は一致団結してますよ」
全員が棚神選手を信頼し、リスペクトしている。その言葉を鵜呑みにするわけにはいかないのだろうが、直接聞いた有栖と反保はそれが嘘やその場を取り繕うように発したようには思えなかった。
だが、棚神選手がファイティングプロレスの合併や海外進出に否定的で、それらに対して様々な発信をしている背景から多くの人と意見が反していることも確かなはずだ。
「ですが、棚神選手は海外進出や合併に対して否定的ですよね? そこで誰かと拗れたり――」
有栖のその言葉に藤内選手は笑い、林は大きくため息をつく。その二つの反応に彼女は困惑した。
「ほらもう……あの人はプロフェッショナル過ぎるんですよ」
「しかし、ユースティティアまで騙すとはたいしたもんだぜ、林さん」
「どういうことですか?」
林は重たい頭を支えるように右手の指でこめかみを押さえていたが、
「態度を一貫しているのでここで私が話すのは忍びないですが……」
ご内密でお願いします、と一言付け加えた後に林は続けた。
「棚神さんは海外進出にも、合併にも肯定的なんですよ」
ハルカ選手からは、
「あの人がいたから成長できました。生意気だった俺を真正面から何度も受け入れて、闘って――何でもできると思っていた、何でも変えれると思っていたのですが、そんなに簡単じゃない、甘くない、ファンには認められない……そんな自分の未熟さに気づきましたね。それに気づかせて、向き合わせてくれたのが棚神さんです。あの人にしか教えられないことがたくさんある。だから、まだまだ頑張ってもらわないと」
ミサゴ選手からは、
「こっちに来た頃は――あぁ、実はこっちの言葉も喋れるんだ。棚神さんに教えてもらってね。それぐらいたくさん面倒を見てもらった。一流の選手は傲慢になりがちだけど、あの人は違う。困っているとき、誰にも相談できないときにはいつも彼の方から気づいてくれたよ。でも、これからは海外進出も視野に入れるからいつもの言葉で話した方が良いし、ファンもキミの話す言葉なら理解したくなってきっと勉強してくれる。聞こうとしてくれる。だから、そんな選手になるんだよって言ってくれて……その言葉のおかげで頑張ってこれた。俺は精神的に不安定な部分もあるからね、彼は俺のメンターであり憧れだ。彼のようになりたいし、その為の教科書はまだ読み終えていないよ」
スタッフは、
「棚神さんはこちらの意見をしっかり聞いてくれるし、理解もしてくれます。その上で選手側の意見を伝えてくれるので助かりますよ……私達じゃあ、レスラー側の気持ちは解らないことも多いですから。しっかりと橋渡しをしてくれるし、意見が合わないときは何度も話し合ってくれます。無理に意見を通そうとはしないですね。おかげで弊社は一致団結してますよ」
全員が棚神選手を信頼し、リスペクトしている。その言葉を鵜呑みにするわけにはいかないのだろうが、直接聞いた有栖と反保はそれが嘘やその場を取り繕うように発したようには思えなかった。
だが、棚神選手がファイティングプロレスの合併や海外進出に否定的で、それらに対して様々な発信をしている背景から多くの人と意見が反していることも確かなはずだ。
「ですが、棚神選手は海外進出や合併に対して否定的ですよね? そこで誰かと拗れたり――」
有栖のその言葉に藤内選手は笑い、林は大きくため息をつく。その二つの反応に彼女は困惑した。
「ほらもう……あの人はプロフェッショナル過ぎるんですよ」
「しかし、ユースティティアまで騙すとはたいしたもんだぜ、林さん」
「どういうことですか?」
林は重たい頭を支えるように右手の指でこめかみを押さえていたが、
「態度を一貫しているのでここで私が話すのは忍びないですが……」
ご内密でお願いします、と一言付け加えた後に林は続けた。
「棚神さんは海外進出にも、合併にも肯定的なんですよ」
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