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第四章:旗揚げ記念日

有栖4-3

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「あぁ、有栖さんに反保さん」

 藤内選手の控室の近くまで駆けつけると、目的地から出てきた社員の林が二人を見つけて、声をかけた。

「今、お時間宜しいですか?」
「あの、自分達は藤内選手に用事が……」
「なら、丁度いい。ご一緒に中で話しましょう」

 半ば強引に林が決めてしまう。藤内選手の控室にノックをし、返答があると彼は先程出てきた部屋に戻ってしまった。
 どうしたものか、と思った有栖と反保だが、どちらにせよ藤内選手と話をしなければならないので、ドアが締まり切る前にドアノブを掴み、

「失礼します」

 と、言って中に入った。


「これはこれはユースティティアの御二方ではありませんか」

 中に入ると試合前のラフな格好の藤内選手が迎え入れてくれた。彼は控室にあるパイプ椅子に座っており、林はその横に立っていた。

「何か用かな? 今日、俺は大事な試合があるのでオクパードなんだ。用事があるなら早くしてくれよ」

 左腕につけた腕時計を右手の人差し指と中指でペシペシ、と叩き、時間がないよとアピールする。その様子は以前出会ったときと同じレスラーである藤内選手だった。

「時間がないのなら単刀直入で質問させてもらいます。こちらもそちらの方が、都合が良い」

 有栖が藤内選手の真向かいに立ち、林を一瞥し、少し強い語気で尋ねた。

「藤内さん。貴方は棚神選手のことを本心ではどう思っていますか? 強い怨恨を持っていたのではないのですか?」

 率直にぶつける質問。それは相手の虚を突いて反応を見る。手法の一つだが素人には効果的だ。下心のあるものは戸惑いや不安の色を顔に僅かだが出すだろう。
 有栖と反保は先程までの聞き込みでも同様のことを行った。

「…………」

 藤内選手はきょとん、とした表情を見せ後、取り繕うように再びレスラーの仮面を被り、

「棚神との怨恨? そりゃあ、長い因縁に――」
「藤内さん、これはインタビューではありません。聴取です。真剣に答えてください」

 飄々と答えようとした彼に有栖は声をワントーン落とし、睨むような視線をぶつけて、仮面を剥ぐ。
 藤内選手は状況を理解したのか、小さく息を吐き、真剣な表情になると、

「林さん。アレを渡してくれ。まだ渡してないんだろ?」

 そう言われ、林は頷くと、

「これを……」

 彼は有栖に近づき、掌の上に乗った『それ』を差し出した。
 掌の上には茶色い小瓶があり、中では少量の液体が揺れていた。

「これは?」
「毒……相手を少し遅らせてから麻痺させるらしい。これを探してたんだろ?」

 藤内選手は有栖の問に逆に問い返してみせた。
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