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第十章_空白と余白

有栖_10-3

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「どうぞ、座って」
「失礼します」
 その日の昼頃、有栖は一色京の家を訪れていた。事前に許可を得て、会うのは二回目だ。密葬のときにも挨拶はしたが彼女はそれをカウントしたくはなかった。
 有栖は以前も京と話したことがある和室の茶の間に通されて、ちゃぶ台を挟んで向かいあって座る。
 以前と違うのはその場に一色誠の仏壇があることだった。
「楓ちゃんの様子はどうですか?」
 有栖が訪れたのは一色の死後、残された家族が気になったからだ。不思議な縁ではあるが、娘とも母親とも仕事をする上で関わったことがあり、友好な関係だった。
「部屋に閉じこもってるわ」
「……そうですか」
「でも、ご飯食べてるし、泣き疲れてるのかもしれないけど睡眠はとってる。こういうのはそんなことを繰り返して徐々に受け入れていくしかないから」
 そう話す京の目が少し赤いことを有栖は気づいていた。
 愛する人を失った立場ではあるが、子供を護らなければならない立場でもある。泣きたくて仕方なくても、そのままでいることができない辛さを思うと、有栖の胸は苦しくなった。

 一色京には一色の死とその対応についてユースティティアから説明があった。その場に有栖は立ち会うことは許されず、佐倉が対応することになった。内容については録音も議事録も残っていない。当然、受け入れられる話ではないと思っていたが、佐倉がなんとか説得してくれた、という話だけは有栖も教えてもらえた。

「きっと楓は立ち直るから大丈夫よ。頼れる彼氏もいるみたいだし、あの部屋から出たあとも大丈夫、大丈夫」
 京はおそらく楓の部屋がある場所を見上げ、明るく振る舞う。その態度をさせてしまっていることに有栖は申し訳なさを感じてしまった。
「有栖さん、この前気づいたことがあるんだけど、話していいかしら?」
「何でしょう?」
 唐突の申し出だが、話したいことなんて山ほどあるだろうと思い、有栖は了承する。しかし、次に京が口にした言葉は想定外のことだった。
「私と誠なんだけど――離婚したことになっているの」
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