有栖と奉日本『垂涎のハローワールド』

ぴえ

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第十章_空白と余白

有栖_10-2

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 言いたいことを言い終えた天使が一礼すると、立ち去る際に有栖の横を通り過ぎる――そのときだ。

「無能な上司を持つと部下は苦労しますね」

 彼は有栖にそう囁いた。
 ぷつり、と何かが切れる音を有栖は聞いた。それは彼女だけに聞こえた音で、何かは理解できなった。しかし、ただ急激に湧き出たのが『怒り』の感情だというのは解る。そして、今の彼女は何も考えずにその感情に従った。
 拳を握り、天使に向かって殴りかかる。

 しかし――次の瞬間に吹き飛んだのは有栖だった。

 有栖の繰り出した拳は届かず、逆に天使の拳がカウンターで顔面に炸裂した。それは彼の反応が速い、というのもあるが、それよりも想定していたのだろう。その言葉が耳に届けば、短絡的な行動をする、ということを。

 有栖は吹き飛び、彼女に巻き込まれた医務室の備品が派手に散乱した。
「先輩!」
「有栖!」
 反保と佐倉が心配して近づくが、有栖は頬の痛みと口から流れる血を噛みしめながら天使を睨む。
「親切心でユースティティアの隊員の遺体を運び、彼が行った蛮行に対しての温情処置をしてあげたのに、殴りかかってくるとは……ユースティティアは少し教育が足りていないのでは? まぁ、良いでしょう。このことも見逃してあげます……私個人の温情処置です」
 天使は歪んだ笑顔を見せると、軽やかな足取りでその場を立ち去った。
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