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第九章_ハローワールド
一色_9-3
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陽が沈む頃合いに、一色はHALビルに戻ってくることが出来た。警察とユースティティアの捜査網を掻い潜るは簡単なことではなく、どうやっても牛歩になる。
そう考えれば当初からHALビルから離れるべきではなかったか、とも考えたが天使が警察とユースティティアに虹河原殺害の件をリークしたとなれば、現場には双方が集まることになる。そうなれば、近くにいることはリスクが高かっただろう。
――どうせ離れるしかなかったか。しかし、天使の奴、このビルのこと何て説明したんやろか。いや、まぁ過ぎたことやし、どうでもええわ。アイツならどうとでもできるやろし。
HALビルで起きた殺人事件。そこで警察とユースティティアの人物が遭遇して、事件が起きて、ビルの所有者である警察の署員である天使が発見した、となると相応の理由がないと違和感が生じる。
しかし、一色の考えていた通り、天使は警察の上層部を丸め込んで、理由を準備していた。
HALビルは警察の研修施設として検討しており、そのインフラ整備などのついでに天使はここで仕事をしていたことになっている。虹河原は協力者で、『とある案件』の情報を協議する為に泊まり込んでいたところを一色が『情報を奪う』為に来て、そこで鉢合わせた為に殺害に至ったのだろう。
これが天使が双方に行った説明である。
では、何故、虹河原に協力を? 何故、一色はここに来た?
それらの疑問については、『とある案件』を過去に一色が警察に所属していたときに行っていた隠蔽を含む警察の暗部に関することにした。虹河原に協力を頼んだのは、当時、一緒に行動していた彼なら何かしら知っているのではないか、ということにし、一色はその情報を得て消滅させる為に来たのではないか。そこで不幸な事故が起きた――そのようにして辻褄を合わせていた。
「開いてる……か」
昨日入ったトイレの窓の鍵は開いたままになっていた。これを、相手が締め忘れている、と楽観的に考えることなんて出来なかった。
――誘われとるわな
そう考えるのが妥当だろう。寧ろ、そう考えて警戒するべきだった。
トイレを出て、一階のフロア……昨日はロボットに追われた場所に差し掛かると息を潜めて覗き見る。しかし、そこには何もなかった。とりあえず上の階へ行こう、と背後に警戒しながら階段のある場所に入ったときだ。
黒い影が二つ降ってきた。ナイフを構えた――彼方と此方だった。二人はナイフを一色に向かって振るおうとしていた。
「くっ!!」
先手を打たれたが一色は咄嗟に反応した。ショットガンで二つのナイフを受け止めた――が、彼はその判断が間違いだったと気づいた。ナイフの軌道が一色の身体ではなく、最初からショットガンを狙っていたからだ。
二人分の力で同一方向に振るわれた刃はショットガンを一色から引き剥がし、後方へと弾き飛ばした。
――最初からショットガンを奪うことが目的か
弾き飛ばされた武器を拾おうかと先程のフロアを確認したが、先回りするように彼方が回り込んでいた。
一色は武器を失い、彼方と此方に挟まれる状況になってしまった。
「お前らとの第二ラウンドは想定してなかったわ」
天使を警戒し過ぎたこと。一度は倒した相手を天使は二回も差し向けないだろう、と甘く考えていたことを一色は後悔した。
そう考えれば当初からHALビルから離れるべきではなかったか、とも考えたが天使が警察とユースティティアに虹河原殺害の件をリークしたとなれば、現場には双方が集まることになる。そうなれば、近くにいることはリスクが高かっただろう。
――どうせ離れるしかなかったか。しかし、天使の奴、このビルのこと何て説明したんやろか。いや、まぁ過ぎたことやし、どうでもええわ。アイツならどうとでもできるやろし。
HALビルで起きた殺人事件。そこで警察とユースティティアの人物が遭遇して、事件が起きて、ビルの所有者である警察の署員である天使が発見した、となると相応の理由がないと違和感が生じる。
しかし、一色の考えていた通り、天使は警察の上層部を丸め込んで、理由を準備していた。
HALビルは警察の研修施設として検討しており、そのインフラ整備などのついでに天使はここで仕事をしていたことになっている。虹河原は協力者で、『とある案件』の情報を協議する為に泊まり込んでいたところを一色が『情報を奪う』為に来て、そこで鉢合わせた為に殺害に至ったのだろう。
これが天使が双方に行った説明である。
では、何故、虹河原に協力を? 何故、一色はここに来た?
それらの疑問については、『とある案件』を過去に一色が警察に所属していたときに行っていた隠蔽を含む警察の暗部に関することにした。虹河原に協力を頼んだのは、当時、一緒に行動していた彼なら何かしら知っているのではないか、ということにし、一色はその情報を得て消滅させる為に来たのではないか。そこで不幸な事故が起きた――そのようにして辻褄を合わせていた。
「開いてる……か」
昨日入ったトイレの窓の鍵は開いたままになっていた。これを、相手が締め忘れている、と楽観的に考えることなんて出来なかった。
――誘われとるわな
そう考えるのが妥当だろう。寧ろ、そう考えて警戒するべきだった。
トイレを出て、一階のフロア……昨日はロボットに追われた場所に差し掛かると息を潜めて覗き見る。しかし、そこには何もなかった。とりあえず上の階へ行こう、と背後に警戒しながら階段のある場所に入ったときだ。
黒い影が二つ降ってきた。ナイフを構えた――彼方と此方だった。二人はナイフを一色に向かって振るおうとしていた。
「くっ!!」
先手を打たれたが一色は咄嗟に反応した。ショットガンで二つのナイフを受け止めた――が、彼はその判断が間違いだったと気づいた。ナイフの軌道が一色の身体ではなく、最初からショットガンを狙っていたからだ。
二人分の力で同一方向に振るわれた刃はショットガンを一色から引き剥がし、後方へと弾き飛ばした。
――最初からショットガンを奪うことが目的か
弾き飛ばされた武器を拾おうかと先程のフロアを確認したが、先回りするように彼方が回り込んでいた。
一色は武器を失い、彼方と此方に挟まれる状況になってしまった。
「お前らとの第二ラウンドは想定してなかったわ」
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