上 下
91 / 116
第九章_ハローワールド

一色_9-3

しおりを挟む
 陽が沈む頃合いに、一色はHALビルに戻ってくることが出来た。警察とユースティティアの捜査網を掻い潜るは簡単なことではなく、どうやっても牛歩になる。
 そう考えれば当初からHALビルから離れるべきではなかったか、とも考えたが天使が警察とユースティティアに虹河原殺害の件をリークしたとなれば、現場には双方が集まることになる。そうなれば、近くにいることはリスクが高かっただろう。

 ――どうせ離れるしかなかったか。しかし、天使の奴、このビルのこと何て説明したんやろか。いや、まぁ過ぎたことやし、どうでもええわ。アイツならどうとでもできるやろし。

 HALビルで起きた殺人事件。そこで警察とユースティティアの人物が遭遇して、事件が起きて、ビルの所有者である警察の署員である天使が発見した、となると相応の理由がないと違和感が生じる。
 しかし、一色の考えていた通り、天使は警察の上層部を丸め込んで、理由を準備していた。

 HALビルは警察の研修施設として検討しており、そのインフラ整備などのついでに天使はここで仕事をしていたことになっている。虹河原は協力者で、『とある案件』の情報を協議する為に泊まり込んでいたところを一色が『情報を奪う』為に来て、そこで鉢合わせた為に殺害に至ったのだろう。
 これが天使が双方に行った説明である。

 では、何故、虹河原に協力を? 何故、一色はここに来た?

 それらの疑問については、『とある案件』を過去に一色が警察に所属していたときに行っていた隠蔽を含む警察の暗部に関することにした。虹河原に協力を頼んだのは、当時、一緒に行動していた彼なら何かしら知っているのではないか、ということにし、一色はその情報を得て消滅させる為に来たのではないか。そこで不幸な事故が起きた――そのようにして辻褄を合わせていた。

「開いてる……か」
 昨日入ったトイレの窓の鍵は開いたままになっていた。これを、相手が締め忘れている、と楽観的に考えることなんて出来なかった。

 ――誘われとるわな

 そう考えるのが妥当だろう。寧ろ、そう考えて警戒するべきだった。
 トイレを出て、一階のフロア……昨日はロボットに追われた場所に差し掛かると息を潜めて覗き見る。しかし、そこには何もなかった。とりあえず上の階へ行こう、と背後に警戒しながら階段のある場所に入ったときだ。

 黒い影が二つ降ってきた。ナイフを構えた――彼方と此方だった。二人はナイフを一色に向かって振るおうとしていた。

「くっ!!」

 先手を打たれたが一色は咄嗟に反応した。ショットガンで二つのナイフを受け止めた――が、彼はその判断が間違いだったと気づいた。ナイフの軌道が一色の身体ではなく、最初からショットガンを狙っていたからだ。
 二人分の力で同一方向に振るわれた刃はショットガンを一色から引き剥がし、後方へと弾き飛ばした。

 ――最初からショットガンを奪うことが目的か

 弾き飛ばされた武器を拾おうかと先程のフロアを確認したが、先回りするように彼方が回り込んでいた。
 一色は武器を失い、彼方と此方に挟まれる状況になってしまった。

「お前らとの第二ラウンドは想定してなかったわ」

 天使を警戒し過ぎたこと。一度は倒した相手を天使は二回も差し向けないだろう、と甘く考えていたことを一色は後悔した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

有栖と奉日本『不気味の谷のアリス』

ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第五話。 マザー・エレクトロン株式会社が開催する技術展示会『サイバーフェス』 会場は『ユースティティア』と警察が共同で護衛することになっていた。 その中で有栖達は天才・アース博士の護衛という特別任務を受けることになる。 活気と緊張が入り混じる三日間――不可解な事故と事件が発生してしまう。 表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)

有栖と奉日本『幸福のブラックキャット』

ぴえ
ミステリー
警察と相対する治安維持組織『ユースティティア』に所属する有栖。 彼女は謹慎中に先輩から猫探しの依頼を受ける。 そのことを表と裏社会に通じるカフェ&バーを経営する奉日本に相談するが、猫探しは想定外の展開に繋がって行く―― 表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)

有栖と奉日本『ファントムケースに御用心』

ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第二話。 少しずつではあるが結果を残し、市民からの信頼を得ていく治安維持組織『ユースティティア』。 『ユースティティア』の所属する有栖は大きな任務を目前に一つの別案件を受け取るが―― 表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)

変な屋敷 ~悪役令嬢を育てた部屋~

aihara
ミステリー
侯爵家の変わり者次女・ヴィッツ・ロードンは博物館で建築物史の学術研究院をしている。 ある日彼女のもとに、婚約者とともに王都でタウンハウスを探している妹・ヤマカ・ロードンが「この屋敷とてもいいんだけど、変な部屋があるの…」と相談を持ち掛けてきた。   とある作品リスペクトの謎解きストーリー。   本編9話(プロローグ含む)、閑話1話の全10話です。

有栖と奉日本『チープな刻の中で』

ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第四話。 誰しも時間は平等に流れている。 治安維持組織『ユースティティア』にも警察にも。 それが束の間の平穏だとしても。 表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)

有栖と奉日本『ミライになれなかったあの夜に』

ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第八話。 『過去』は消せない だから、忘れるのか だから、見て見ぬ振りをするのか いや、だからこそ―― 受け止めて『現在』へ そして、進め『未来』へ 表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

リモート刑事 笹本翔

雨垂 一滴
ミステリー
 『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。  主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。  それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。  物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。  翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?  翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!

処理中です...