有栖と奉日本『垂涎のハローワールド』

ぴえ

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第八章_一日前

一色_8-8

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 こつこつ、と天使の足音を背後に聞きながら、一色は逃げた。走ると打撃を受けた身体が軋み、痛み、表情が険しくなる。しかし、止まるわけにはいかなかった。

 ――やっぱ勝てんかったな

 肉弾戦に関しては負けることは予想通りだった。天使は強い、ということは知っているが、それでも万が一でも勝機があればそれに超したことはない。そう考えていたのだが……

 ――当初の作戦しかないか

 一色としてはその作戦は実行したくはなかった、というのが本音だった。だから天使との肉弾戦に応じたのだ。だが、現実は選択肢が一つしか残っていない。
 後方から人の気配を音などで遠目ながらにも感じる。即座に追ってこないのは自分に絶望を与え、後悔させて楽しんでいることも考えられるが、それ以上に慎重にもなっているのだろう。

 ――天使が選ぶのは確実な勝利。だからこそ、予想外の一撃こそ勝利へのカギや

 痛む身体にも徐々に慣れ、一階のロッカールームへとたどり着いた。ここが一色の目的地だ。彼は中に入ると、電気を付け、ロッカーの一つを開ける。
 そこには布に包まれた長細い物体が入っていた。それを取り出すと、布を取り払う。出てきたのは――ショットガンだった。

 これは奉日本を経由し手に入れた物で、ここに入った業者の一人に隠してもらっていた。ユースティティアで銃を借りると『内通者』の我孫子を通じて、それを持っていることがバレる。そうすれば自然と警戒され、策を練られるので、裏社会に通ずる奉日本から秘密裏に入手し、引き渡す方法を考えてもらった。
 これが一色が用意した天使を仕留める武器だった。

 ――この場所に入ったことは気づかれてるはずや

 一色は銃を構え、銃口をドアに向け、引き金に指を掛ける。

 ――この部屋に入ったら……タイミングだけは間違えるな

 時刻が翌日へと切り替わったとき――ドアが開いた。
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