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第八章_一日前

一色_8-7

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 戦闘を終え、一色はため息のように大きく息を吐いた。しかし、彼を休ませるつもりはない、と言わんばかりにフロアの奥にあった自動ドアが開き、乾いた拍手の音が鳴り響いた。
 一色の視線は自然とそこに向かうが、その人物を視界に捉えると緩みそうになった緊張が自然と張り詰めた。それは戦闘中以上に鼓動を速くさせるぐらいに。
「天使」
「さすがですね、一色さん」
 拍手を止めた天使の表情は笑顔だった。
「彼等もシニガミの先輩に指導して貰えて光栄だったと思いますよ」
「引退した奴にそんなことを任せんなよ」
 二人は向かいあうと、互いに歩み寄る。
「そう言わず、もう一人だけ『後輩』を指導して頂けませんか?」
「お前が言うと嫌味に聞こえるな」
 近づく、近づく――
「そうそう一色さん、伝えたいことがありまして」
「なんや?」
 近づく――
「そろそろご退場願えますか?」
「断るわ」
 その会話を交わし終えた瞬間、同時に右拳を互いの顔面に放った。それを互いに左手で受け流す。その動作はシンクロし、まるで鏡合わせだった。
 次の先手は天使だった。鋭いハイキックを頭部に放つ。しかし、それを一色はかいくぐると足払いで、天使の軸足を払う。相手が地面に腰をつくと、その顔面に向かってフルスイングのアッパーを放つ。轟音が唸り、風を切る一撃だったが、天使はそれを横方向に飛ぶように転がり、避けた。
 一色は空振りをしたが、間合いが開いたのでそこで一度戦闘を区切る。深追いは危険と判断したのだろう。天使も追撃がこないことが解ると、ゆっくりと立ち上がった。
「鈍ってはいないようですね」
「お前も警察の幹部になったから、戦闘は久々かと思ったんやけど……そうやなさそうやな」
「当たり前ですよ。私はいつだって血生臭い死地にいます」
「そりゃ残念や」
「私も残念ですよ」
「何がや?」
「いえ、鈍ってはいないようですが――成長もしていないようだからです」
「…………」
「次はもう少し本気でいきます。気を抜くと――死にますよ」
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