有栖と奉日本『垂涎のハローワールド』

第八章_一日前

一色_8-6

「痛っ」
「くそっ」
　反撃にあった彼方と此方だが、再び立ち上がろうとする。彼等としてはこの程度のダメージでは戦闘不能にはならない。しかし、そのことを理解しているのは彼等だけではない。
　一色はこの好機を逃すことなく、猛然と突っ込み、立ち上がりきる前に此方の顔面をサッカーボールのように蹴り上げる。そして、胴体に拳によるラッシュを繰り出すと、襟首を掴み、まるで無機質の物体を扱うように、彼方へと投げつける。
「うあっ！！」
　足にナイフが刺さった彼方は反応が遅れ、此方をぶつけられてよろめく。体制を整えたいが、遅い。間合いを詰めた一色の右ストレートが顔面に炸裂した。後方へと死に体になった彼方を一色はさらに追撃で拳を打ち下ろす。
　彼方の身体が衝撃で床にワンバンドして、倒れた。此方も起き上がる様子はない。
「悪いな、年季がちゃうねん」
　一色は息を切らすことなく、聞こえない相手にそう言ってみせた。