有栖と奉日本『垂涎のハローワールド』

ぴえ

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第八章_一日前

天使_8-1

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 天使は目の前にある複数のモニターを一通り眺めると、眼を瞑った。そして、瞼ごしに明滅する白い微かな光を感じながら、その状態で無心になる。
 睡眠には至らず、意識ははっきりとしている。しかし、脳は動かさないように努めた。自身の中で無の空間を作り、そこに意識を漂わせる。それは天使が大きな任務に挑む前に必ず実施する行為だった。万全を期した策を問題なく実行する為に、余計な感情の起伏を消し、邪推のような思考をしないように自身を心身共にニュートラルな状態に持って行くのだ。
 そして、天使はゆっくりと眼を開ける。気がつけば、既に二時間以上経過していた。余裕を持って実施したのだが、それでも想定した以上に時間は経過していた。

 ――それほどまでに、私自身の準備が出来ていなかった、ということですかね

 そう思うが、それすらも予期した上で彼は行動をしている。消費した時間が二時間経っていたとしても、天使はこの時間に三時間のスケジュールを確保していた。だから、彼が動揺することはない。

「彼方、此方。指示通り動きなさい、余計なことはしないように」

 天使は振り返らず、背後で待機している彼方と此方に声をかける。

「はい、承知しました」
「はい、承知しました」

 抑揚のない声がぴったりと重なって聞こえてきた。そして、そのあと、天使の部屋から出て行くドアの開閉音だけが響く。足音がしなかったことが、天使にとっては当然であったが、その当然ことをした二人に好感を覚えた。
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