有栖と奉日本『垂涎のハローワールド』

第七章_二日前

天使_7-1

　天使はＨＡＬビルにある最上階の一室にいた。
　そこは彼が建物内で一番気に入った場所でもある。一人では持て余すぐらいの広さに、ぽつんと置いてあるデスクとチェア。そして、その前方には二十面以上のモニタがまるで一つの大画面であるかのように、整然と並ぶ。このモニタはビル内にある監視カメラの映像が映し出されており、デスクにあるパソコンで切り替えたり、操作したりが可能だ。
　天使はそのモニタを眺めていきながら、一つの画面で視線を止めた。

　――準備は整った。あとは遂行するのみだ。

　天使は最善の策を構築した。そして、それに自信もある。おそらく、これ以上はないとも思っている。それでも『もしかしたら』が何度も、何度も頭に過ぎり、策が瓦解する映像が浮かぶ。

　――そうだ。あの一色相手に問題無く遂行することこそが一番難しい。

　それを天使は理解していた。だからこそ、構築した策が瓦解するなんてことを考えるのだ。そして、このようなことは彼にとって初めての経験だった。

「ふふ。あはは！」

　天使は自身の『初めて』に高揚し、それを隠さず認めるように笑う。

「今まで、何度も策を考えてきた。失敗なんて考えたこともない。この私が不安を確かに抱いている。素晴らしい、素晴らしい。一色誠――楽しませてくれ」