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第六章_三日前

天使_6-2

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「早速ですが、一色という男がこの店に来店していますね」
 天使は注文したスコッチウィスキーのロックを一口飲むと、そう切り出した。
「お客様のプライベートな情報は――」
「つまらない回答は控えてください。死にたくないでしょう」
 奉日本の定型文を予期したかのように、天使はさらり、と言い切った。
 店内にはまだ客が残っており、天使の発言も店内の雑音の一つとして紛れているのにも関わらず、その音も言葉の温度の冷たさも確実に奉日本へと届いていた。何か一つ判断を間違えれば、今、この瞬間にでも命を刈り取ってしまいそうな確かな殺気が奉日本の身体を硬直させる。無数の銃口に囲まれ、目の前には冷たいナイフを突きつけられているような緊張感が、そこにはあった。奉日本としても、助かる可能性に縋るならば眼前のナイフと向かい合った方が得策だと判断した。
「はい。来ています」
「それで良い。シニガミが一色のことについては調べているんだ。無駄なことはしないように」
「はい」
 奉日本は閉店準備をしている姿を装いながらグラスを拭く。
「何の話をしていた? その情報をリークしなさい」
「…………」
「もちろん、強制ではありません。ただ『賢い判断』をしなさい、とだけ言っておきます」
「……………………」

 僅か数分だけ、奉日本は沈黙した。しかし、それは思考を廻らせるには短く、しかし、苦痛を与えられるには充分な時間でもあった。
 そして――
「――――――――です」
「なるほど。どこで?」
「――――――――になります」
「そうですか。キミは賢い方だ。裏社会で一目置かれる存在だけある。冷静に、正しい選択をした。まぁ、その情報の真偽は確認しますけど」
「勝手にしてください。ここで嘘を話して、生き残れる相手ではないことは解っているつもりです」
「そうですか」
 天使は少し笑うと、上機嫌にグラスの中身を一気に飲み干した。強いアルコールとスモーキーな香りが体内を駆け巡る。
「良い酒だ。気に入りましたよ、キミもこの店も」
「それはどうも」
 天使はカウンターにグラスを置き、そこに必要以上に多くの金を挟んで席を立つ。奉日本がグラスを回収しようとすると、彼は即座にその手首を掴んだ。そして、軽く引き寄せ耳打ちを一つ。
「折角、綺麗な顔なんだ。その『右目』も治したらどうですか?」
 その言葉が届くと、奉日本は手を振り払い、天使を睨んだ。
「私も利用した腕の良い医者がいますので、良かったら紹介しますよ。興味があったら連絡をください。では――」
 天使は不敵な笑みを残すと、店から軽やかな足取りで出て行った。
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