有栖と奉日本『垂涎のハローワールド』

ぴえ

文字の大きさ
上 下
37 / 116
追憶_3

一色_十八歳_2

しおりを挟む
「あんたまた何か企んでない?」

慌てて帰って行ったロバートは夜には現れず、厳しい顔をしたシアが代わりに食事を届けに来た。今すぐにでも会いたいのに、思うように会えない。連絡だってとれない。モヤモヤとした気持ちが心の中に渦巻いているからか、シアの問いかけに答える事が億劫になり、ついフイっと顔を背けてしまった。

「反省してるわけじゃなさそうだね」

私に無視されてムカついたのか、シアの口調が刺々しくなった。

「謝ればだしてくれるわけ?」

「何を謝るっていうの?」

「反省しろって言ったのは貴方なんだから貴方に聞けば?『ごめんなさい、私が可愛いばっかりに貴女の愛する人を奪ってしまったのね!!』とでも言って欲しいの?」

もっと怒らせてやろうかと思って煽ってみたが表情は変わる事なく、可哀想なものでも見るかのような目でこちらをみてきた。

「ここみが奪ったものは、それだけじゃないって、まだ気が付かないの?ユウリの代わりに聖女になりたかったのなら何で、苦しんでる人を救わなかったの?他の人が整えた環境を壊してなぜ邪魔をしたの?そのせいで…何人の人たちがなくなったとおもっているの?そういうことに気がつけって言ってるんだよ!!人の男を奪う事しか頭に無いのか?」

「私のせいじゃ無いじゃん!!病気を広げたのは私?汚い水を流したのは私?違うでしょ!オーラリアだって、医者じゃ無いくせにでしゃばらなければ苦労しなくて済んだじゃない!!人に責任なすり付けないでよ」

うまくいかないことは全部私のせい。昔からそうだった。私を好きになったせいで離婚したんだから慰謝料よこせとか、婚約破棄したんだから婚約しろだとか。彼女の代わりに家賃半分払えとか。みんな私には関係ないことなのに。今回だって、浄化しないでほったらかしにしたのはユウリ。川に汚い水を流して生活してたのは街のみんなじゃない。本当に自分勝手な人ばっかり!腹が立ってお昼が乗っていたお盆を思いっきりシアに向かって投げつける。もちろん鉄格子と電流に弾かれてお盆は黒く焦げ床に叩き落とされる。


バチバチバチン!!!

という思っていた以上の大きな音に一瞬ビックリしたがほんの少しだけ胸がスッとした。
シアは、もともと大きな目を見開いて鉄格子を見つめている。

「ローランドか?」

「知らない。私だって最近気が付いたんだから。知らずに出ようとしてたら死んでるよ。酷すぎる」

「…いや、酷すぎることはないよあんたにはこの牢獄がお似合いだよ。ここで反省もせずにご自慢の美貌が朽ちていくのを嘆いていれば良い。」

「は?」

「お手入れしていない髪は艶がなくなる」

その言葉に、無意識に自分の髪に手をやるとサラッと指が抜けるはずが直ぐにつっかえる。

「潤いが足りなければ肌は荒れる」


次に頬に手を当てれば、カサカサなのにベタベタな何とも言えない手触りを感じた。
そう言えばこの部屋には鏡がない。ロバートにこんなみっともない姿で会っていたなんて。そう思うと恥ずかしくて涙が出てきた。


「早く消えて!!もう会いたくない!!」


腕を組んだまま呆れた顔をしているシアにそう叫ぶと私はベットに突っ伏して思い切り泣いた。
いつの間にか眠ってしまっていたようで、目を覚ますとあたりは暗くシンと静まり返っていた。
塔の下からザクザクと微かに足音が聞こえ、何の気無しに窓から外を覗くとロバートが見回りでもしているのか歩いていた。それだけだったらよかったのに、若いメイドが並んで歩いていた。

モヤモヤとした嫌な気持ちが一気に湧き出してきた。

何か話をしているのか、時々顔を見合って笑っている。

腕に触れて語りかけている。




どうしよう、とられてしまう。その人は私のモノなのに!!


そう思った瞬間に胸の奥がズキンと痛んだ。



他人に好きな人を取られるって…こう言う気持ちになるんだ。

私は本当に初めて、そう思った。悲しくて悔しくて本当に嫌だ。

取らないで!!って腹の底から叫びたい。





取ってなんかないよ、勝手に私を好きになっただけでしょ。


過去の私が、鉄格子の向こうで、そう言って嘲笑った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

有栖と奉日本『不気味の谷のアリス』

ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第五話。 マザー・エレクトロン株式会社が開催する技術展示会『サイバーフェス』 会場は『ユースティティア』と警察が共同で護衛することになっていた。 その中で有栖達は天才・アース博士の護衛という特別任務を受けることになる。 活気と緊張が入り混じる三日間――不可解な事故と事件が発生してしまう。 表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

有栖と奉日本『ファントムケースに御用心』

ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第二話。 少しずつではあるが結果を残し、市民からの信頼を得ていく治安維持組織『ユースティティア』。 『ユースティティア』の所属する有栖は大きな任務を目前に一つの別案件を受け取るが―― 表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)

パラダイス・ロスト

真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。 ※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。

警狼ゲーム

如月いさみ
ミステリー
東大路将はIT業界に憧れながらも警察官の道へ入ることになり、警察学校へいくことになった。しかし、現在の警察はある組織からの人間に密かに浸食されており、その歯止めとして警察学校でその組織からの人間を更迭するために人狼ゲームを通してその人物を炙り出す計画が持ち上がっており、その実行に巻き込まれる。 警察と組織からの狼とが繰り広げる人狼ゲーム。それに翻弄されながら東大路将は狼を見抜くが……。

強制憑依アプリを使ってみた。

本田 壱好
ミステリー
十八年間モテた試しが無かった俺こと童定春はある日、幼馴染の藍良舞に告白される。 校内一の人気を誇る藍良が俺に告白⁈ これは何かのドッキリか?突然のことに俺は返事が出来なかった。 不幸は続くと言うが、その日は不幸の始まりとなるキッカケが多くあったのだと今となっては思う。 その日の夜、小学生の頃の友人、鴨居常叶から当然連絡が掛かってきたのも、そのキッカケの一つだ。 話の内容は、強制憑依アプリという怪しげなアプリの話であり、それをインストールして欲しいと言われる。 頼まれたら断れない性格の俺は、送られてきたサイトに飛んで、その強制憑依アプリをインストールした。 まさかそれが、運命を大きく変える出来事に発展するなんて‥。当時の俺は、まだ知る由もなかった。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...