有栖と奉日本『垂涎のハローワールド』

ぴえ

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追憶_2

一色_十六歳_1

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 天使はその日――正確には日付が変わる少し前、閉店間際のドアを躊躇なく開けた。
「いらっしゃいませ。すみません、お客様。当店、もうすぐ閉店でして――」
 言い慣れた定型文を口にしながら、その店のマスターは天使の存在を視界に捉えると、意図的に言葉を止めた。それは、互いに誰であるかを認識したのと同義だった。
 天使は微笑み、空いているカウンター席へと歩を進めると、座り、マスターを真っ直ぐに見据えた。
「提供できるのは一杯だけですが、それでも宜しいでしょうか?」
「えぇ、一杯だけでも有名な奉日本さんのお酒が飲めるなら光栄ですね」
「こちらも有名な天使さんが来店したとなれば店として箔が付きますよ」
 どちらも有名という単語の前には『裏社会』では、という言葉が隠されていたが、音にせずともそれは伝わっていた。それほどまでに、二人は初対面でありながらも、存在を認識し、一目置いていたのだ。
「お酒を飲みながら、少し話がしたいのだけれど……良いかな?」
「……まだ他のお客様がいますが?」
 疎らながら客は数名、カウンター席とテーブル席に座っている。これは、それでも話すのか、話せる内容なのか、という奉日本の問いかけでもあった。
「バーではマスターとの会話を楽しむのが、私の趣味でね。それに――誰かがいた方が貴方も安心でしょう」
 天使がそう返したとき、奉日本の喉が小さく動いたことを彼は見逃さなかった。
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