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第一章 正常性バイアス
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僕にいきなり生まれた不思議な能力――うん、これを能力と認めて、整理して、諦めることは夏休み前にはできていた。
バイト先でヒメコさんが教えてくれた不良品のカッターナイフ……あれは僕が『生み出したモノ』だった。唐突のことで意味不明で、頭が狂ったと勘違いされても構わないけど、どうやら僕は自分がイメージしたモノを生み出せるらしい。そのモノは生物とかじゃなくて無機物の物体。もっと具体的に言えば武器だ。
最初は、いや、二回目もカッターナイフだった。あのときと同じように、そうだ、あのときはカッターナイフを買う必要があったから想像していたら手の中にあったんだ。だから、もしかしたらと思ってカッターナイフを頭の中でイメージするとぼんやりと掌が光って、カッターナイフを握っていた。ちなみに、このカッターナイフをクラスメイトに渡して使って見ると、問題無く使えた。ヒメコさんのときもそうだったけど、生み出したモノは僕以外の人も使えるらしい。そんな感じで少しずつ実験していった。
僕のこの能力はイメージが具体的になるほど動作も機能も精密になり思い通りに動くようだった。なんかテキトーに想像した拳銃は引き金も動かない酷い代物で、思わず笑った。
そこから、図書館で返却したときに武器について載っている本があったことを思い出して、借りて、バイトの合間で勉強するようになった。たぶん、学業より力を入れていたと思う。だって、回数を重ねる度に上達して楽しくなるから。
何回も練習して、何回も鉄のゴミを量産して、ようやく拳銃を創れたとき――僕は怖くなった。正確に言えば、その拳銃を夜の公園で撃ったときだ。公園にあるコンクリートの壁に撃ったら衝撃で肩を痛めたんだっけ。アルバイトにも支障が出たけど、まぁ、それはどうでもよくて……火薬の匂いと壁に深くめり込んだ弾を見たとき、それが人を容易に貫くことができるのだと悟った。
あぁ、僕が生み出したのは武器だ。凶器だ。人を傷つけ、殺すことができてしまう。それを自由自在に生み出せる自分が怖い。
何で頑張ったんだろう?
何で努力したんだろう?
いや、解ってる。能力の精度を磨いたのは自分の人生に価値を見出したかったからだ。
自分のこんな人生に。
いや、もうそんなことはどうでもいい。
解った。充分に解った。
僕のこの能力は『特別』なんかじゃない『異質』だ。
ぐるぐる回る思考の中、その結論にたどり着くと僕は逃げ出した。発砲音で耳鳴りのする中、僕は逃げた。
逃げながら頭の中に浮かぶのは一つの結論と一つの疑問。
僕はこの能力を隠しながら生きよう。
そして、僕は――僕は人間なんだろうか?
バイト先でヒメコさんが教えてくれた不良品のカッターナイフ……あれは僕が『生み出したモノ』だった。唐突のことで意味不明で、頭が狂ったと勘違いされても構わないけど、どうやら僕は自分がイメージしたモノを生み出せるらしい。そのモノは生物とかじゃなくて無機物の物体。もっと具体的に言えば武器だ。
最初は、いや、二回目もカッターナイフだった。あのときと同じように、そうだ、あのときはカッターナイフを買う必要があったから想像していたら手の中にあったんだ。だから、もしかしたらと思ってカッターナイフを頭の中でイメージするとぼんやりと掌が光って、カッターナイフを握っていた。ちなみに、このカッターナイフをクラスメイトに渡して使って見ると、問題無く使えた。ヒメコさんのときもそうだったけど、生み出したモノは僕以外の人も使えるらしい。そんな感じで少しずつ実験していった。
僕のこの能力はイメージが具体的になるほど動作も機能も精密になり思い通りに動くようだった。なんかテキトーに想像した拳銃は引き金も動かない酷い代物で、思わず笑った。
そこから、図書館で返却したときに武器について載っている本があったことを思い出して、借りて、バイトの合間で勉強するようになった。たぶん、学業より力を入れていたと思う。だって、回数を重ねる度に上達して楽しくなるから。
何回も練習して、何回も鉄のゴミを量産して、ようやく拳銃を創れたとき――僕は怖くなった。正確に言えば、その拳銃を夜の公園で撃ったときだ。公園にあるコンクリートの壁に撃ったら衝撃で肩を痛めたんだっけ。アルバイトにも支障が出たけど、まぁ、それはどうでもよくて……火薬の匂いと壁に深くめり込んだ弾を見たとき、それが人を容易に貫くことができるのだと悟った。
あぁ、僕が生み出したのは武器だ。凶器だ。人を傷つけ、殺すことができてしまう。それを自由自在に生み出せる自分が怖い。
何で頑張ったんだろう?
何で努力したんだろう?
いや、解ってる。能力の精度を磨いたのは自分の人生に価値を見出したかったからだ。
自分のこんな人生に。
いや、もうそんなことはどうでもいい。
解った。充分に解った。
僕のこの能力は『特別』なんかじゃない『異質』だ。
ぐるぐる回る思考の中、その結論にたどり着くと僕は逃げ出した。発砲音で耳鳴りのする中、僕は逃げた。
逃げながら頭の中に浮かぶのは一つの結論と一つの疑問。
僕はこの能力を隠しながら生きよう。
そして、僕は――僕は人間なんだろうか?
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