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過去との対話_奉日本_6
奉日本_6-4
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そのあとは俺が何をせずとも片付いていった。
先程の女性が伊東を格闘で制圧したあとに、警察が駆けつけてきたのだ。どうやら、伊東がナイフを持って歩いているところを通行人が見かけて、通報したらしい。
本来ならばユースティティアの手柄ではあるが、通報を受けたのは警察だの、ユースティティアは見回りをしていただけ、と色々と口論があった後、ユースティティアの女性が俺の方を一瞥すると、諦めたかのように全てを警察に譲った。おそらく、手柄よりも被害者の状態を優先したのだろう。
警察は簡単に俺から話を聞くと伊東を連れて、去って行った。
そのあと、
「大丈夫ですか?」
俺を助けてくれた女性がそう声をかけてくれた。
ユースティティアの内情については俺の耳にも入って来ていた。
とある性被害により大規模な人事異動と組織構成に変更が生じたこと。その性被害については、おそらく伊東の店で昏睡状態になった女性のことだろう、ということも。
あのときの女性とはもう二度と会うことはないだろう、と思っていた。だが現実は、彼女は少し様相が変わったものの、ユースティティアに残り、一人の隊員として戦い続けていた。
あの日のことから逃げたのではないのだろう。消化できたわけでもないだろう。傷をおっていないわけでもないだろう。真実を知ったわけでもないだろう。
だからこそ、俺のことを心配している彼女を、俺は強い女性だと思った。
「助けて頂いて、ありがとうございます」
「警察に全て持っていかれましたけどね」
そう言って、彼女は苦笑いをしていた。
「あの、お名前を聞いても良いですか?」
「え? 自分ですか? 自分は、有栖、といいます。もしまた何かあったらユースティティアに名指しで連絡してくれれば駆けつけますよ。あと――」
有栖、と名乗った女性は俺の今後のことも心配していた。あれこれと丁寧に説明をし、そこには真摯さも感じた。
一方で、俺は彼女に興味を持っていた。俺だけが理解している奇妙な出会い。もしかしたら、彼女とは縁があるのかもしれない。
悪縁は悪縁を呼ぶ。
良縁は良縁を呼ぶ。
では、この奇妙な縁は何と呼び、何を呼ぶのだろう。
俺はそのことに興味を持ったのだ。
だから――
「有栖さん、お礼をさせてください。俺の店でランチを食べていきませんか?」
先程の女性が伊東を格闘で制圧したあとに、警察が駆けつけてきたのだ。どうやら、伊東がナイフを持って歩いているところを通行人が見かけて、通報したらしい。
本来ならばユースティティアの手柄ではあるが、通報を受けたのは警察だの、ユースティティアは見回りをしていただけ、と色々と口論があった後、ユースティティアの女性が俺の方を一瞥すると、諦めたかのように全てを警察に譲った。おそらく、手柄よりも被害者の状態を優先したのだろう。
警察は簡単に俺から話を聞くと伊東を連れて、去って行った。
そのあと、
「大丈夫ですか?」
俺を助けてくれた女性がそう声をかけてくれた。
ユースティティアの内情については俺の耳にも入って来ていた。
とある性被害により大規模な人事異動と組織構成に変更が生じたこと。その性被害については、おそらく伊東の店で昏睡状態になった女性のことだろう、ということも。
あのときの女性とはもう二度と会うことはないだろう、と思っていた。だが現実は、彼女は少し様相が変わったものの、ユースティティアに残り、一人の隊員として戦い続けていた。
あの日のことから逃げたのではないのだろう。消化できたわけでもないだろう。傷をおっていないわけでもないだろう。真実を知ったわけでもないだろう。
だからこそ、俺のことを心配している彼女を、俺は強い女性だと思った。
「助けて頂いて、ありがとうございます」
「警察に全て持っていかれましたけどね」
そう言って、彼女は苦笑いをしていた。
「あの、お名前を聞いても良いですか?」
「え? 自分ですか? 自分は、有栖、といいます。もしまた何かあったらユースティティアに名指しで連絡してくれれば駆けつけますよ。あと――」
有栖、と名乗った女性は俺の今後のことも心配していた。あれこれと丁寧に説明をし、そこには真摯さも感じた。
一方で、俺は彼女に興味を持っていた。俺だけが理解している奇妙な出会い。もしかしたら、彼女とは縁があるのかもしれない。
悪縁は悪縁を呼ぶ。
良縁は良縁を呼ぶ。
では、この奇妙な縁は何と呼び、何を呼ぶのだろう。
俺はそのことに興味を持ったのだ。
だから――
「有栖さん、お礼をさせてください。俺の店でランチを食べていきませんか?」
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