有栖と奉日本『ミライになれなかったあの夜に』

ぴえ

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過去との対話_奉日本_6

奉日本_6-3

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「奉日本ぉ……」

 カフェからバーへと切り替えるときの休憩時間。裏口からゴミを捨てようと外へ出たときに、その声は聞こえた。
 油断していた、というのが本音だ。夜は自然と警戒心が高まるが、白昼は人の目もあるのでそれが緩んでいたのだろう。
 この男――伊東がそれを理解していたのかは解らないが、彼はそこに立っていた。彼を追っている裏社会の人間は夜に出歩くことが多いからそのような行動に出たのかもしれない。
 そんなことを考えはしたが、今となっては意味のないことなので俺は即座に警戒心を高め、現状の理解に努めた。

 伊東は以前会ったときよりも、痩せており、ただ立っているだけなのに上半身がゆらりと揺れている。衰弱している、という表現が正しいだろう。目もこちらを向いてはいるが、どこか泳いでいるようにも見える。服も薄汚れており、ホームレスの様相を思わせた。いや、実際に今やホームレスなのだろうが。
 それだけならば貧相な感じなので、押せば倒せそうな雰囲気もあったが、問題は伊東の右手にはナイフが握られていたことだろう。これだけで、格闘や喧嘩、というより運動自体が得意でない俺にとっては選択肢が逃げるしかなくなった。

「奉日本ぉ、お前、恩を仇で返しやがって……まぁ、いいや。名案を思いついたんだよ。お前を、殺して、さぁ……んで、俺がお前の代わりにその店を、やればいいんだよ。マスター交代だ。大丈夫、繁盛するし、人気店にもする。安心して、変われ。俺は第二の人生をスタートするんだぁ」

 言っていることが支離滅裂で計画性も破綻している。ただ、厄介なのは本気でそれを言っているような精神状態だから、実行もする、ということだ。
 俺の選択肢は一つ。店に戻って、ドアを閉めて、カギをかけて難を逃れる。それしかない。

「奉日本ぉ!!」

 伊東がこちらへと駆けて来た。思ったよりも速い。俺は後退して店内に――そのときだ。

「ぐはぁ!」

 横から猛スピードで何かが飛び込んできた。それが人だと認識するときに映ったのは、彼女が伊東を跳び蹴りで顔面を蹴り飛ばしたときだ。
 まるで入れ替わるように、伊東の立っていたところに、その女性は立っており、伊東は地面を激しく転がった。彼女の背中にはユースティティアのエンブレム。
 そして、その顔には見覚えがあった。
 彼女は――伊東の店で昏睡状態になったとき、俺が助けなかった女性だ。
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