94 / 104
過去との対話_奉日本_5
奉日本_5-9
しおりを挟む
意識を失っている女性の上半身の服は乱れ、下半身は何も身につけいなかった。ゴミ箱には個装のローションが封が切られて捨てられており、シャワー室は使用した形跡があった。
おそらく男は自分だけシャワーを浴びて、さっさと行為をしようとしたのだろう。しかし、
――ホテルについてから彼女を担いで、受付、部屋までの移動、シャワー。それに対して、俺が車でバーに戻って、再び来るのには約十五分ほど。つまり……
行為は行われていない、と判断するには充分だろう。男も、
「クソが、これからがお楽しみだったってのに……」
と言っていた。それも裏付けになる。
――さて、と
この状況で俺には二つの選択肢があった。それはこの女性を起こすか否か。
前者はそれをすることで彼女に何も無かったことを伝え、恩を作り、ユースティティアとのコネクションや先程の男やそこに繋がっている伊東を陥れる案を画策する材料にする。
後者は何も得られないが、何にも巻き込まれない。
結果としては、俺はその場に女性を放置し、自身の痕跡を残すことなく去った。彼女に状況を説明するのも面倒かつユースティティアである以上、正式に事件と扱われて証言などに巻き込まれる――この状況は関わることの方が厄介だ。
残された彼女のことは気の毒だ、とは思う。
犯されたかどうか不透明な状況――これは僅かな希望を与えることと同義だ。
犯されたと確定すれば絶望という一つの現状に苛まれても、諦めるか受け入れるか、の道はいずれ決まる。
しかし、 大丈夫だったかもしれない、と考える余地があると、道は複雑になり、何度もループして、希望と絶望を彷徨うことになる。永遠に続く――こっちの方が地獄だと、個人的には思う。
もしかしたら、そこまで考えることもなく犯された、と決めつけるかもしれないが――どっちにしろ同情はすれど、自身にリスクを課してまで助ける必要はないし、俺の知ったことではない。
おそらく男は自分だけシャワーを浴びて、さっさと行為をしようとしたのだろう。しかし、
――ホテルについてから彼女を担いで、受付、部屋までの移動、シャワー。それに対して、俺が車でバーに戻って、再び来るのには約十五分ほど。つまり……
行為は行われていない、と判断するには充分だろう。男も、
「クソが、これからがお楽しみだったってのに……」
と言っていた。それも裏付けになる。
――さて、と
この状況で俺には二つの選択肢があった。それはこの女性を起こすか否か。
前者はそれをすることで彼女に何も無かったことを伝え、恩を作り、ユースティティアとのコネクションや先程の男やそこに繋がっている伊東を陥れる案を画策する材料にする。
後者は何も得られないが、何にも巻き込まれない。
結果としては、俺はその場に女性を放置し、自身の痕跡を残すことなく去った。彼女に状況を説明するのも面倒かつユースティティアである以上、正式に事件と扱われて証言などに巻き込まれる――この状況は関わることの方が厄介だ。
残された彼女のことは気の毒だ、とは思う。
犯されたかどうか不透明な状況――これは僅かな希望を与えることと同義だ。
犯されたと確定すれば絶望という一つの現状に苛まれても、諦めるか受け入れるか、の道はいずれ決まる。
しかし、 大丈夫だったかもしれない、と考える余地があると、道は複雑になり、何度もループして、希望と絶望を彷徨うことになる。永遠に続く――こっちの方が地獄だと、個人的には思う。
もしかしたら、そこまで考えることもなく犯された、と決めつけるかもしれないが――どっちにしろ同情はすれど、自身にリスクを課してまで助ける必要はないし、俺の知ったことではない。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
有栖と奉日本『ファントムケースに御用心』
ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第二話。
少しずつではあるが結果を残し、市民からの信頼を得ていく治安維持組織『ユースティティア』。
『ユースティティア』の所属する有栖は大きな任務を目前に一つの別案件を受け取るが――
表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)
有栖と奉日本『幸福のブラックキャット』
ぴえ
ミステリー
警察と相対する治安維持組織『ユースティティア』に所属する有栖。
彼女は謹慎中に先輩から猫探しの依頼を受ける。
そのことを表と裏社会に通じるカフェ&バーを経営する奉日本に相談するが、猫探しは想定外の展開に繋がって行く――
表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)
有栖と奉日本『不気味の谷のアリス』
ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第五話。
マザー・エレクトロン株式会社が開催する技術展示会『サイバーフェス』
会場は『ユースティティア』と警察が共同で護衛することになっていた。
その中で有栖達は天才・アース博士の護衛という特別任務を受けることになる。
活気と緊張が入り混じる三日間――不可解な事故と事件が発生してしまう。
表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)
有栖と奉日本『チープな刻の中で』
ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第四話。
誰しも時間は平等に流れている。
治安維持組織『ユースティティア』にも警察にも。
それが束の間の平穏だとしても。
表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)
有栖と奉日本『垂涎のハローワールド』
ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第七話。
全てはここから始まった――
『過去』と『現在』が交錯し、物語は『未来』へと繋がっていく。
表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)
変な屋敷 ~悪役令嬢を育てた部屋~
aihara
ミステリー
侯爵家の変わり者次女・ヴィッツ・ロードンは博物館で建築物史の学術研究院をしている。
ある日彼女のもとに、婚約者とともに王都でタウンハウスを探している妹・ヤマカ・ロードンが「この屋敷とてもいいんだけど、変な部屋があるの…」と相談を持ち掛けてきた。
とある作品リスペクトの謎解きストーリー。
本編9話(プロローグ含む)、閑話1話の全10話です。
リモート刑事 笹本翔
雨垂 一滴
ミステリー
『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。
主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。
それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。
物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。
翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?
翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!
ファクト ~真実~
華ノ月
ミステリー
主人公、水無月 奏(みなづき かなで)はひょんな事件から警察の特殊捜査官に任命される。
そして、同じ特殊捜査班である、透(とおる)、紅蓮(ぐれん)、槙(しん)、そして、室長の冴子(さえこ)と共に、事件の「真実」を暴き出す。
その事件がなぜ起こったのか?
本当の「悪」は誰なのか?
そして、その事件と別で最終章に繋がるある真実……。
こちらは全部で第七章で構成されています。第七章が最終章となりますので、どうぞ、最後までお読みいただけると嬉しいです!
よろしくお願いいたしますm(__)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる