有栖と奉日本『ミライになれなかったあの夜に』

ぴえ

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過去との対話_奉日本_5

奉日本_5-9

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 意識を失っている女性の上半身の服は乱れ、下半身は何も身につけいなかった。ゴミ箱には個装のローションが封が切られて捨てられており、シャワー室は使用した形跡があった。
 おそらく男は自分だけシャワーを浴びて、さっさと行為をしようとしたのだろう。しかし、

 ――ホテルについてから彼女を担いで、受付、部屋までの移動、シャワー。それに対して、俺が車でバーに戻って、再び来るのには約十五分ほど。つまり……

 行為は行われていない、と判断するには充分だろう。男も、

「クソが、これからがお楽しみだったってのに……」

 と言っていた。それも裏付けになる。

 ――さて、と

 この状況で俺には二つの選択肢があった。それはこの女性を起こすか否か。
 前者はそれをすることで彼女に何も無かったことを伝え、恩を作り、ユースティティアとのコネクションや先程の男やそこに繋がっている伊東を陥れる案を画策する材料にする。
 後者は何も得られないが、何にも巻き込まれない。

 結果としては、俺はその場に女性を放置し、自身の痕跡を残すことなく去った。彼女に状況を説明するのも面倒かつユースティティアである以上、正式に事件と扱われて証言などに巻き込まれる――この状況は関わることの方が厄介だ。

 残された彼女のことは気の毒だ、とは思う。
 犯されたかどうか不透明な状況――これは僅かな希望を与えることと同義だ。
 犯されたと確定すれば絶望という一つの現状に苛まれても、諦めるか受け入れるか、の道はいずれ決まる。
 しかし、 大丈夫だったかもしれない、と考える余地があると、道は複雑になり、何度もループして、希望と絶望を彷徨うことになる。永遠に続く――こっちの方が地獄だと、個人的には思う。

 もしかしたら、そこまで考えることもなく犯された、と決めつけるかもしれないが――どっちにしろ同情はすれど、自身にリスクを課してまで助ける必要はないし、俺の知ったことではない。
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